コラム

ソ連の行く末を言い当てた「未来学」...今こそ知るべき4人の権威が見通していたこと

2022年07月14日(木)17時26分
ソ連イメージ

agustavop-iStock

<「未来学」確立に大きく影響したのが米ソ冷戦と核戦争の脅威。混乱する時代の先を見通した4人の功績から、現代の世界情勢への教訓を得る>

前回の記事の最後に触れた通り、20世紀は未来学の確立期だった。同時に、指し示す未来はユートピアかディストピアか、その明暗をめぐって揺れる揺籃期でもあった。

20世紀後半に入ると、未来学の進展のうえで欠かせないSF作品や論考が相次いで発表されていった。未来学の地歩を固めた主要な人物として、
・ハーマン・カーン
・ピーター・シュワルツ
・アルビン・トフラー
・アーサー・クラーク
らがいる。4人の功績や著作に触れつつ、未来学の現在地に至る道程を振り返りたい。

彼らの作品や思想が支持を集めた1960~1980年代は、米ソの冷戦の只中にあった。核保有国同士がにらみ合い、コールド・ウォーがホット・ウォーに成りかねない、非常に危うい緊張状態が続いていた。風雲急を告げて戦争の火の手が上がった今日の国際情勢に、どこか似通っていなくもない。

当時のフューチャリストたちは、先行きが不透明な時代に、人々の不安をいたずらに煽ることは決してせず、未来に起こり得る事象を、多種多様なデータや過去のトレンドから多角的に言い当てた。彼らの忠言、未来予測は当時の人々にある種の安心感を与えた。

感染症や戦禍が広がり、数カ月先の未来さえ見通せないような今の世界情勢を読み解くうえでも、多くの示唆に富んでいる。

希望から絶望へ

前回の記事で触れたSFの巨匠、H・G・ウェルズ(1866~1946年)は1895年に『タイム・マシン』、1901年に『アンティシペイションズ』と20世紀の始まりに相前後して希望に満ちた作品を世に送り出した。しかし最晩年の1945年に発表した著作は『心の終焉』(原題:Mind at the End of Its Tether)。希望とは裏腹の悲愴感が、タイトルから横溢している。

20世紀初頭から20世紀半ばにかけて何が起こったのか。言わずもがな、それは2度の世界大戦である。

原爆投下により、人類の未来は限りなく絶望へと近づいた。科学技術の非人道的な使用は、ウェルズの希望的未来論を打ち砕いたのであった。

ウェルズは、最後の作品を書く30年も前に、原爆が無慈悲に使われる陰惨な未来を、「そうあってはならない」と祈りつつ、予見していた。しかしその警鐘も虚しく、人類はパンドラの箱を開けてしまった。失意の中、ウェルズは1946年に息を引き取った。

未来学は、第二次世界大戦を挟んで、それまでの希望的で楽観的な未来へのイメージを描く役割から、米ソ冷戦というきな臭い国際情勢に正対するための、現実的な戦略を提唱する役割へとシフトしていった。

プロフィール

南 龍太

共同通信社経済部記者などを経て渡米。未来を学問する"未来学"(Futurology/Futures Studies)の普及に取り組み、2019年から国際NGO世界未来学連盟(WFSF・本部パリ)アソシエイト。2020年にWFSF日本支部創設、現・日本未来学会理事。著書に『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(いずれも産学社)のほか、訳書に『Futures Thinking Playbook』(Amazon Services International, Inc.)。東京外国語大学卒。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北朝鮮兵がロシアにいる証拠ある=米国防長官

ワールド

イスラエル軍がガザ攻撃、20人死亡 北部で作戦強化

ワールド

トランプ陣営、英労働党の選挙干渉を批判 調査要求

ワールド

BRICS首脳、ウクライナ・中東紛争を協議 グルー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が出産後初めて公の場へ...夫フセイン皇太子と仲良くサッカー観戦
  • 3
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 4
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思う…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 7
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 8
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 9
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 10
    大谷とジャッジを擁する最強同士が激突するワールド…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story