コラム

EVと太陽電池に「過剰生産能力」はあるのか?

2024年05月29日(水)10時14分

■日本の自動車産業が全体として不要になる?

日本以外の主要な自動車市場ではEVシフトが急速に進みつつある。EVシフトへの対応が遅れている日本勢は世界的にもマージナルな存在へと落ちぶれていき、最後はEVの普及が進まない日本市場にしがみつくしかなくなる、という最悪のシナリオまで見えてきた。

2018年の末であったか、NHKの番組のなかで著名な自動車産業アナリストが「日本は世界のEVシフトを遅らせるべきだ」と語っていた。その趣旨は、日本の自動車産業はガソリンエンジン車やハイブリッド車で世界的に競争力が強いので、日本の産業と市場の影響力を使ってEVシフトを食い止めれば日本の産業に有利になる、という意味だった。これを聞いていささか日本の影響力を買いかぶりすぎではないだろうか、日本がEVシフトの足を引っ張ろうとしても世界でEVシフトが進み、日本が世界から取り残される懸念はないのだろうか、と首をかしげざるを得なかった。現実はまさにその懸念の通りになろうとしている。このままでは日本の自動車産業が全体として不要なものになってしまう。

■太陽電池は

太陽電池も差別化商品である。その機能においては発電という単一の機能しかないものの、光を電気に変換する技術がいろいろあり、その間での競争が繰り広げられてきた。これまでのところ結晶シリコン型が高い変換効率と低い生産コストを両立できる技術として有力であるが、変換効率はそれより劣るものの生産コストがより安いカドミウムテルル薄膜(はくまく)型にも一定の競争力がある。さらに桐蔭横浜大学の宮坂力(つとむ)教授の研究室で発明されたペロブスカイト太陽電池は、製造法が簡単で材料が安いにもかかわらず結晶シリコン型に匹敵する高い変換効率を実現できる技術として注目されている。現状では耐久年数に課題を残しているようだが、近い将来に有力な技術になるであろう。

様々な太陽電池技術の間で競争が繰り広げられるなかで生産能力過剰に陥るメーカーも出てくるだろう。5月14日にシャープが堺市の工場で作っていたテレビ用液晶パネルの生産をやめることが発表されたが、堺工場はもともと液晶パネルと太陽電池の両方を生産する工場として建てられた。ところが、シャープが選択した薄膜シリコン型太陽電池は変換効率が低いわりに生産コストは低くなかったため、競争力がなく、結局生産をやめた経緯がある。こうした技術間の競争のなかで太陽光発電の競争力が高まり、火力発電や原子力発電よりも有利な発電手段となっていくであろう。そうなれば太陽光発電が経済的な選択として生き残り、火力発電所や原子力発電所、そしてそれらの設備を作る産業が余剰になっていくだろう。2050年までに排出実質ゼロを公約した先進国はそうした転換を進める義務を自らに課したはずである。それなのに中国の太陽電池産業が過剰だと非難し、その発展を妨げるために関税を課すことに道理があるであろうか。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アメリカン航空、今年の業績見通しを撤回 関税などで

ビジネス

日産の前期、最大の最終赤字7500億円で無配転落 

ビジネス

FRBの独立性強化に期待=共和党の下院作業部会トッ

ビジネス

現代自、関税対策チーム設置 メキシコ生産の一部を米
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 10
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story