コラム

突然躍進したBYD

2023年05月18日(木)14時00分

一方、年42万台から年188万台に拡大するには、年産20万台規模の工場を新たに7つスタートさせなくていけない。以前にトヨタの社員に聞いたところでは、海外で一つの工場を新たに立ち上げる時には数百人のエンジニアが日本から赴いて機械の調整などを行うという。トヨタならいざ知らず、それまで年産50万台程度の規模でしかなかったBYDにそれほど多くのエンジニアを各工場に派遣する実力があったとは考えにくい。

また、2022年は上海でのロックダウン、半導体の供給不足、東南アジアでの新型コロナ感染などの影響により、トヨタの日本国内の工場もたびたび稼働停止を余儀なくされた。2023年3月期にトヨタの連結販売台数は前年度に比べて7.2%増えたものの、配車の遅れがいまでも続いている(トヨタ自動車「グローバル生産計画・国内工場の稼働について」)。

トヨタが直面した生産の困難は、世界の自動車メーカーが共通して直面したものだと思われるが、そうしたなかでBYDが2022年に生産台数を2.5倍にも拡大できたことはやはり驚きである。

なぜそんなことが可能になったかというと......実は私にもよくわからないのである。

3月の深圳訪問の際にBYD本社にも行ったのであるが、ショールームを一通り案内されただけで、工場は見学できず、BYDの幹部との面談もなかった。もしBYD幹部と面談する機会があれば、ズバリ「なぜそんなに生産を急拡大できたのですか?」と聞いてみたかった。

これまで私が得た情報から推測すると、以下の4つの理由が考えられる。

第一に、当然ながらBYDが生産拡大に対応できるよう工場を増設してきたことが指摘できる。『日本経済新聞』2023年4月7日付によると、BYDは深圳、西安、長沙など全国8か所の工場を持ち、その生産能力は2022年末で総計290万台にも上る。2023年末には生産能力を430万台にまで引き上げる可能性があるという。となると、1年で140万台分もの新たな生産ラインを増設することになるが、既存の工場の能力拡張によって達成する計画である。

第二に、EVの内部構造が通常のガソリン自動車よりも簡単であるため、組立ラインが短くて済むメリットがある。そのため、工場に設置して調整する必要のある機械の数も少なく、労働者の訓練もより簡単で済む。この点は工場見学で確認できればよかったが、残念ながらそれはかなわなかった。ただ、図1で示したように、テスラも急ピッチで生産台数を増やしており、一般論としてEVは通常の自動車よりも急ピッチで工場の生産能力を拡大できるようである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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