コラム

エンターテインメント空間化する中国のEV

2023年03月07日(火)17時44分

リーリーが声を出した。「ママ、退屈だよ。アニメ見ていいでしょ?」

「いいよ。でもワンチュワン先生がいるから音は小さめにね」と李さんがいう。

「リーリー、私には気にしないで好きなの見てよ」と私は言った。

リーリーは助手席前のディスプレイに向かって、「ビリビリを開いて」と言った。

すると助手席前の15インチディスプレイがアニメ配信サイトのビリビリになり、リーリーがお気に入りに指定している番組が画面に並んだ。リーリーがその中の一つにタッチするとアニメが始まった。なんと私が小学生の時にみていたネズミとネコが追いかけっこをするアメリカのアニメである。

「へえ、懐かしいな。おじさんも子供の頃これ見てたよ」と私は思わず声をあげた。

「面白いよね」とリーリーが答えた。

ところがアニメが始まってみると、動画はむかし見ていたのと同じだけど、音が全然違うことに気づいた。上下左右から音が降り注いできて、すごい迫力である。大きな音に合わせて座席が震えたようにも感じた。大人目線でこのアニメを見ると、キャラクターの動きに合うように曲が作られて演奏されていることに気づく。子供の頃には気づかなかったその魅力が、迫力ある音響によって存分に発揮されている。

「李さん、この車の音響、すごいね」と私は感嘆の声を挙げた。

「デンマークの何とかというメーカーのスピーカーが合計28個入っているそうよ」

「へえ。でも運転中にこれやられると李さんは気が散らない? カーナビの音声が聞こえなくて困ったりしない?」と私は聞いた。

「いや、私のところからは画面が見えないようになっているし、カーナビ音声は私の耳の横にあるスピーカーから流れるから大丈夫よ」と李さんは答えた。

アニメを2本見終わっても車はまだ渋滞にはまったままだった。リーリーは「今度はカラオケやろう」といって、カラオケのサイトを立ち上げ、マイクを持って歌い始めた。

結局、渋滞に30分ぐらいはまってしまったが、不思議なことにイライラしてこない。ハンドルを握る李さんもアニメやカラオケの音楽を楽しんでいるようである。渋滞でもイライラしないのはEVにはアイドリングがないからかもしれない。

ガソリン車の場合、渋滞している間も、車が完全に止まる状況でなければエンジンが回り続け、ガソリンを消費し続けることになる。ハイブリッド車の場合は、渋滞にはまるとエンジンが止まって電動モードで動くことも可能だが、エアコンをつけていると、やがてエアコンを稼働させるためにエンジンが始動する。要するに、渋滞にはまると時間を無駄にしているだけでなく、ガソリンを無駄に燃焼しているという意識も働き、どうしても気持ちがイラつきがちになる。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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