エンターテインメント空間化する中国のEV
その点EVであれば、アイドリングがないので、渋滞は単に時間が無駄になるだけである。であるならば車内で映画を見たり、音楽を聴いたり、カラオケをしたりして有意義にすごそうという前向きな割り切りができるのだろう。15インチのディスプレイを2つ備えたり、スピーカーを28個装着するなど、このウェイシャオリーZXは日本の自動車では考えられないほど、車内エンターテインメントがテンコ盛りになっているが、それはEVだからこそ出てくる発想なのだろう。
「こんなこともできるのよ」と言って、李さんは中央のディスプレイを操作した。すると、左右のドアや後部座席の後ろから紫色の間接照明が灯った。
「何これ!?」と、私は思わず吹き出してしまった。この色で間接照明というと、日本ではラブホテルを想起させるからだ。
「雰囲灯(アンビエント・ライト)よ」と李さんはこともなげに言う。
「ちょっと雰囲気出すぎるので消していいですよ」と私は慌てて言った。この色調が持つ社会的な意味合いが日本と中国では違うのかもしれない。
「この車、日本で売れるかしら?」と李さんが聞いた。経営者である李さんに向かって下手に「売れる」なんて言おうものなら、だったら輸出ビジネスやるから手伝ってと言われかねないので、私は正直に答えた。
「難しいと思う。この価格帯(650~700万円)の車といえば、日本ではドイツ車かレクサスかに決まっていますよ。そういう車を買うのはステータス消費の面が強いから、中国の新興メーカーだと聞いたら、車がどんなに良くても相手にしてくれないと思うよ」
「ヨーロッパの高速道路を走っていると、ドイツ車が時速200キロぐらいでぐんぐん追い越していって、たしかにドイツ車ってすごいなと思うけど、日本は中国と同じで高速道路の制限速度が時速100~120キロだから、ドイツ車の本領を発揮する場がないんじゃないの」と李さんはいう。
「合理的に考えればそうだけど、ステータスで車を選ぶ人たちにとっては偉そうに見えることが大事だからね。エンターテインメント機能満載の中華系高級EVが日本では難しいもう一つの理由として、購買層の年齢という問題もある。このウェイシャオリーZXが狙っているのは、李さんみたいに30~40歳台で経済的余裕があり、好奇心旺盛で、小さな子供もいるような人たちだと思う。だけど、日本ではその年齢層の人たちって車に650~700万円も使えないんじゃないかな。一方、経済的余裕のある50~60歳台の人たちは、こんなに多くの機能があっても使いこなせないと尻込みしてしまうと思うよ」と私は答えた。
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