エンターテインメント空間化する中国のEV
「それすごく便利だね。スマホの地図だと情報が常に最新でしょ。私が日本で乗っている車のカーナビの場合、情報がDVDに入っているから、車を買った5年前の情報のままなんだよ」と私が言う。
「それってすごく不便じゃない?情報を更新できないの?」と李さんが聞いてきた。
「いや、新しいDVDを買えばいいんだけどね。ただ、そのDVDがけっこう高いから買わずに我慢しているんだ。まあ日本の場合、中国みたいに新しい道路がどんどんできたりしないから5年前の情報でもだいたい大丈夫だよ」と私は答えた。
「でも日本だって高速道路が新たに開設されたり、延長したりすることはあるでしょ。せっかく高速道路があるのにカーナビが一般道を行けと指示したら腹が立たない?」と李さんがさらに聞いた。
「いや、私は目的地への最適経路は出発前にパソコンやスマホで調べておいて、カーナビは車の現在地を確認するための地図として使うだけだから。たまに、完成したばかりのピカピカの道路を走っている時に、カーナビ上では道なき山中を走っているように表示されて笑える、というぐらいのことだよ。でも出発前にスマホで調べた経路がそのまま車上のカーナビに反映されるんだったらそれはすごく便利だよね」と私は答えた。
「そんなこと、技術力の高い日本の自動車メーカーだったら簡単にできそうだけど、なぜやらないの?」と李さんが聞いた。
「私は自動車メーカーの社員じゃないからわからないけれど、むかし日本のある自動車メーカーは車をインターネットにつなぎたくないんだ、という話を聞いたことがある」と私は答えた。
「へえ、自動車産業の進む道はCASE、すなわちConnected(ネット接続)、Autonomous(自動運転)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)だと聞いたけど、日本の自動車メーカーはCとEには背を向けているわけね」と李さんは言った。
「残念ながらその通りだと思う。2019年の年末だったか、家でNHKを見ていたら、割とよくメディアに出てくる自動車産業アナリストが『日本の自動車産業は、世界のEVシフトを遅らせろ』と言い放っていて私は呆れたよ。日本の自動車メーカーたちだけの力で、世界の自動車需要が向かう方向をどうこうできるというその夜郎自大な認識にも驚いたけど、そもそもEVシフトが低炭素化を進めるためであるということを彼はわきまえていない。彼が言っていることは、要するに、『日本の自動車産業の利益のために、自動車がガソリンをバカバカ消費し続ける状況を維持せよ』という意味だからね」と、私は言いながらだんだん腹が立ってきた。
そうこうしている間に、車は高速を下り、一般道へ入った。その道は渋滞していた。
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