企業に経済制裁を強要すべきではない
中国で2005年に歴史認識問題をめぐって反日デモが起きたときや、2012年に日本政府が尖閣諸島を国有化した時、現地の日系企業が攻撃のターゲットとなり、日本製品の不買運動や日系スーパーの破壊、日系ブランドの自動車オーナーに対する嫌がらせ等の事件が起きた。日系企業は、現地で大勢の中国人を雇用し、中国の人々に役立つ製品やサービスを届けるために日々奮闘しているのに、なんと理不尽な攻撃だろうと思った。
ロシアの日系企業も、ロシア人を雇用し、ロシアの人々に製品・サービスを供給する活動をすることは、それが戦争とは無縁の事業である限りは堂々と継続すべきだと思う。企業は経済制裁の主体となるべきではない。経済制裁は政府の行為であり、日本政府は日本国内の法人に経済制裁の政策に従わせる権限はあっても、ロシアにある日系企業の法人に従わせる権限はない。
日本企業のなかでロシアに最も深く根をおろしているのは、筆者の知る限り、日本たばこ産業株式会社(JT)である。JTの2020年の報告書によると、ロシアのタバコ市場におけるJTのシェアは38.4%に及んでおり、フィリップ・モリス・インターナショナルやBATを抑えて第1位である。これはJTが1999年にアメリカのRJRI、2007年にイギリスのギャラハーというタバコメーカーを買収したことによって、ロシアで人気がある「ウィンストン」「LD」などのブランドを獲得したためである。JTはロシアに4つの工場を持ち、現地生産・現地販売の態勢を築いているため、目下事業に支障は出ていないという(ロイター、2022年3月3日)。
企業に制裁を強要するな
万が一、JTがロシア事業から撤退する事態になった場合、タバコ工場の操業に日本人が不可欠ということもないだろうから、工場を現地資本が買い取って操業を継続することになるだろう。ロシアでタバコが入手困難になるといった「効果」が出ることもなく、ただJTが損失を被るだけである。そんな無意味な「制裁」を外部が強要すべきではない。
繰り返して言うが、ロシアは非道な戦争を一日も早くやめるべきである。だが、戦争当事国のロシアで事業を行うことは、兵器や爆薬やその材料を作っているのでなければ、企業倫理に反することではないし、日本企業が経済制裁をするよう外野が圧力をかけるべきでもない。むしろ、ロシアの日系企業が日本の手先のように動くことを強要することは、グローバリゼーションの大前提を崩すことになり、大きな禍根を残すことになる。
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