「中国標準2035」のまぼろし
しかし、デンソーはQRコードでは儲けていない。デンソーがQRコードの普及を促進するために、無償で特許を公開することにしたからだ。デンソーはQRコードリーダーも作っているので、QRコードが普及したら関連機器が売れるという狙いもあったが、実際に売り上げに貢献しているかというと、デンソーの年次報告書に表れてくるほどの効果はみられない。
デンソーが事実上の世界標準を握りながらも、それを収益化できていないのは愚かだという人がいるかもしれないが、私はそうは思わない。もし仮にデンソーがQRコードの利用に1円でも課金していたとしたら、他の二次元バーコードにその地位を奪われていただろう。タダだから国際標準になれたのであり、関連機器を作って収益につなげていくという以上のことはいずれにせよできなかったであろう。それでもQRコードの発明によって世界のデジタル化は大いに進展した。そのことはデンソー自身にとっても良いことのはずである。
もし日本企業が技術のライセンス料で儲けたいのであれば、公認の国際標準は目指さないほうがいい。日本の技術が公認の国際標準になれば、日本企業がそれに関連する機器を輸出する機会が増えるだろうが、世界中のライバルも同じ技術を利用できるので競争は避けられない。それでも、国際標準を作ることで世界の変化を促進するとともに貿易の障壁を取り除き、それが回りまわって日本企業の発展にもつながる、という公益的かつ長期的な立場に立っているのであれば、日本技術の国際標準化を大いに推進してほしい。
参考文献
小林和人「標準化団体のパテントポリシーとFRAND宣言の透明性向上の提案」『デジタルプラクティス』Vol.10, No.1、2019年
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