コラム

米中GDP逆転を目前に下手に出てきた中国

2021年03月17日(水)11時30分

それは端的にアメリカへの配慮のためだと思う。トランプ政権になって以来、アメリカは中国からの広範な輸入品に課税したり、中国企業に対してハイテク製品を輸出するのを禁じたり、アメリカ市場から中国企業のハイテク製品を追放するなど、あらゆる手段を使って中国の経済的台頭を妨害してきた。しかし、その意に反して、トランプ政権発足前の2016年にはアメリカの60%だった中国のGDPは2020年にはアメリカの70%へ迫ってきた。

そして今年(2021年)、中国のGDPはアメリカをさらに急追して77%ぐらいになると私は予測している。

その理由はこうである。まず、中国は昨年前半はコロナ禍で経済が落ち込んだものの、第4四半期になるとコロナ禍以前の成長のペースを取り戻した。今年の経済成長率は昨年の低い数字をベースに計算されるため、昨年第4四半期のような調子で今年も推移すると8~9%ぐらいのGDP成長率となる。

全人代では、2021年のGDP成長率の目標を「6%以上」としたが、これはかなり控えめな目標であった。中国では国全体の成長率の目標を定めると、地方政府が得てしてそれと同水準以上の成長を達成しなければならないというプレッシャーを受けてしまうため、低めにしたのだと思われる。ここでは国際通貨基金(IMF)が今年1月に示した予測に従って今年の中国のGDP成長率は8.1%としておこう。

一方、アメリカもバイデン政権になって大型の景気対策が採られ、ワクチンの接種も進んでいるので、マイナス3.5%と落ち込んだ昨年から一転して今年はかなりのプラス成長が期待できる。ここではIMFの1月の予測に従って5.1%としておこう。

労せずに抜く勢い

米中のいずれもが高成長するなかで、なぜ米中のGDPが急接近するかというと最近元高が進んでいるからである。2020年前半は1ドル=7.1元ぐらいの元安の状況が続いていたが、6月ぐらいから次第に元が上昇してきた。2020年を通しての平均為替レートは1ドル=6.9元だったが、2021年に入ってからずっと1ドル=6.5元ぐらいで推移している。年末までこのままの水準が続くならば、昨年に比べて6%の元高ということになり、その分だけ米中のGDPの差が縮まるのである。

これから10年間は米中のGDPが接近し、為替レートの次第によっては2020年代中ごろにも米中逆転が生じかねないという微妙な時期に入る。中国政府がシャカリキになって成長率の引き上げに取り組まなくても、米中逆転が近づいてくる。もしここで中国があからさまに高成長を目指す目標を設定したら、欧米や日本の警戒心をいやがうえにも高め、アメリカだけでなくヨーロッパや日本も中国の経済的台頭をブロックしようと貿易や技術移転を制限する挙に出るかもしれない。そうすると、中国の経済発展をめぐる国際環境を悪化させることになる。今回成長率の目標が設定されなかったのは、欧米や日本で高まる中国脅威論を和らげることを狙ってのことであろう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story