コラム

米中GDP逆転を目前に下手に出てきた中国

2021年03月17日(水)11時30分

第14次5カ年計画における第二の変化は「中国製造2025」への言及がなかったことである。

「中国製造2025」は10のハイテク産業を重点業種と定めて、先進国へのキャッチアップを目指す産業政策として2015年に制定された。総論的な政策のもとで、産業別の「行動計画」や政策課題別の「実施ガイド」が作成され、ハイテク産業の全領域にわたって先進国へのキャッチアップを目指していた。アメリカのペンス前副大統領は、この政策の実施によって中国は世界のハイテク産業の9割を支配しようとしていると激しく非難した。アメリカが通商法301条を使って、中国からの輸入の半分にも及ぶ広範な輸入品に関税を上乗せしたのも、要するに「中国製造2025」を撤回させるためであった。

アメリカからの激しい反発と圧力に直面して、中国政府は「中国製造2025」を担当していた馬凱副首相が退任した2018年から、これにあまり言及しなくなった。「中国製造2025」のもとのさまざまな計画はすでに更新時期を迎えているが、それを更新する作業も止まっている。

「中国製造2025」は、第12次5カ年計画(2011~2015年)で登場した「戦略的新興産業」9業種を振興する政策をバージョンアップしたものであったが、第14次5カ年計画では再び「戦略的新興産業」の振興が謳われている。つまり、第13次5カ年計画の重点課題であった「中国製造2025」がまるで存在しなかったかのように、それ以前の政策に戻っているのである。

中国政府が「中国製造2025」を撤回すると公言したことはもちろんないが、第14次5カ年計画に書かれていないということはこの政策がすでに死んでいることを内外に表明したに等しい。中国としてはアメリカがそこのところを読み取って貿易戦争の矛を収めることを願っているのだと思われる。

「TPP参加を検討」の真意

第14次5カ年計画における第三の重要な変化は、「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加を積極的に検討する」と明記されていることである。

中国のTPPへの参加意向は昨年11月に習近平国家主席より表明されたが、日本の菅義偉首相の反応は「大きなハードルがある」というすげないものであった。もちろん中国がTPPに参加するには国有企業を優遇しないと確約する必要があるなど障害も大きいが、TPPのメンバー国の多くにとって最大の貿易相手国である中国がTPPの高水準な自由化を実現することのメリットもまた大きい。TPPメンバーにとっては、参加交渉を通じて中国の改革を促進できる大きなチャンスでもある。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I

ワールド

米SEC委員長が来年1月に退任へ 功績評価の一方で

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story