コラム

米中GDP逆転を目前に下手に出てきた中国

2021年03月17日(水)11時30分

アメリカが抜けたいま、日本がTPPのメンバー国の中で最大の経済規模を持つ。その日本にすげない態度をとられたことで中国のメンツがつぶされたが、それでも中国はめげずに5カ年計画に参加意向を明記した。それだけアジア太平洋の仲間に入れてほしいという中国の気持ちが強いのであろう。

日本のマスコミでは「一帯一路」の前に「中国の広域経済圏構想」というまくら言葉をつけることが慣わしとなっている。世界一の経済大国になろうとしている中国は、自国中心の「帝国」を構築するに違いない、という先入観がこうしたまくら言葉に映し出されている。

たしかに、TPPにアメリカも入っていた時代には、中国では、TPPは中国封じ込めを狙ったものなので、「一帯一路」政策の推進を通じて西方に影響力を拡大すべきだといった議論があった。しかし、「一帯一路」の範囲がアフリカやラテンアメリカにまで拡散し、またその中身もインフラ建設が中心であることから、もはや「経済圏」という意味合いはなくなり、「中国の経済協力政策の総称」と定義する以外にないようなものになっている。

中国が自国中心の帝国を構築するのではなく、TPPの仲間に入れてくれと頭を下げていることを前向きに評価し、交渉のテーブルにつくべき時ではないだろうか。

総じていえば、第14次5カ年計画において、中国はだいぶ下手に出てきた印象がある。ところが、そのことは日本では指摘されることさえなく、全人代の報道ではもっぱら香港の民主主義に対する抑圧姿勢だけをクローズアップしている。中国が「内政」だとみなす香港やウイグルの問題に対する外からの批判を受け付けない姿勢をとるのは誠に憂慮に堪えないが、そればかりに目をとられて、今回の全人代および第14次5カ年計画に込められた重要なメッセージを見逃すならば、これからの国際関係の安定に重大な禍根を残すであろう。

なお、本稿でふれた中国経済の現状や中国の弱点といった論点について、きたる『中央公論』5月号に寄稿した拙稿のなかで詳しく述べたので、本稿と併せて参照していただければ幸いである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾総統、太平洋3カ国訪問へ 米立ち寄り先の詳細は

ワールド

IAEA理事会、イランに協力改善求める決議採択

ワールド

中国、二国間貿易推進へ米国と対話する用意ある=商務

ビジネス

ノルウェー・エクイノール、再生エネ部門で20%人員
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story