コラム

マイナンバーの活用はインドに学べ

2020年11月27日(金)21時18分

デジタル後進国の汚名を返上すべく政権入りした平井卓也デジタル改革相 Issei Kato-REUTERS

<インド版マイナンバー、アダールは、10年足らずで12.3億人が自主的に登録した。カードを取得すれば5000円という大盤振る舞いでも普及しない日本版は何が悪いのか>

日本にマイナンバーの制度が導入されてから来年(2021年)の1月で満5年になる。

私にとってマイナンバーはひたすら面倒だという以外の何物でもない。私は職業柄、いろいろな団体や出版社の依頼で執筆したり、講演したりする機会があり、原稿料なり講演料なりを頂戴するのだが、そうした団体や出版社から「マイナンバーを提供してくれ」という依頼状がドッとやってくるのだ。

そういう依頼状がこれまで何通来たか数えていないが、おそらく100通は下らないのではないか。その都度、2016年に各家庭に送られてきたマイナンバーの通知カードと運転免許証のコピーを作成し、送られてくる台紙の指定箇所に切り取って貼り付け、返信用封筒に入れて返送する。

一通あたりの手間はもちろん大したことはないのだが、これが100回となるとうんざりしてくる。しかも毎回同じ作業ならまだしも、各団体でいろいろと知恵を絞っていると見えて、要求内容が微妙に違っているのだ。たとえば運転免許証は表面だけのコピーでいいという団体と裏面もコピーしろといってくる団体とがある。通知カードをコピーするだけでいいところと、マイナンバーを枠の中に自分で転記し、ハンコを押せと要求してくるところがある。返信も普通郵便でいいところと必ず郵便局に行って簡易書留にしろと言ってくるところがある。

なので、依頼状をきちんと読まなければならない。求めている内容はどうせ同じなのだから、日本全国で統一の書式で依頼してくれればいくらかは楽なのに、なぜか各団体でそれぞれ創意工夫を発揮したいようだ。

霞が関の役人は理性を失った?

マイナンバーで一つだけいいことがあった。それは今年(2020年)の秋、マイナポイント5000円分をゲットしたことだ。来年の夏までの間にマイナンバーカードを取得すると、電子マネーなどで最大5000円分を政府がプレゼントしてくれるというのだから、まだ持っていない方はこの機会にぜひ!

ただ、何の役にも立たないカードを国民に持たせて、そのうえ5000円ずつ配るなんて、霞が関の役人たちは長時間労働のせいで理性を失っているのではないだろうか。

話は戻るが、マイナンバー通知カードと免許証のコピーを台紙に貼り付けて返送する作業が苦痛に思えてならないのは、この手間がいったい何のためなのか納得できないからだ。

マイナンバーが行政の事務の効率化に役立つことはよくわかる。私がもらう原稿料や講演料と、その際に各団体が源泉徴収する所得税の情報にマイナンバーを紐づけておけば、税務署でマイナンバーを手がかりに私の収入を簡単に集約できる。私が所得をサバ読んで申告したとしても税務署は簡単に過少申告を見破れる。従来のように名前や住所だけが手がかりであれば、名前の誤記とかもあって、名寄せに結構な時間と手間がかかっただろう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story