コラム

NTT-NEC提携「5Gでファーウェイに対抗」の嘘

2020年08月13日(木)20時34分

NTTドコモの5Gブース(2019年の東京ゲームショウ)。3Gでは技術革新の中心的な担い手だったが、5Gでは脇役だ Issei Kato-REUTERS

<研究開発費でも特許件数でもファーウェイに遠く及ばず、今から追いつくのは不可能。では、この提携の本当の狙いは何なのか>

今年6月25日、NECはNTTから645億円の投資を受け入れ、NTTはNECの株式の4.77%を保有する第3位の大株主になった。新聞報道によると、資本提携の目的は次世代通信(5G) インフラの共同開発を推進し、世界トップの競争力を持つファーウェイに対する「対抗軸をつくる」ことなのだそうだ(『日本経済新聞』2020年6月25日)。

この報道には唖然とした。ファーウェイが昨年投じた研究開発費は1316億元(2兆785億円)である。それより二桁も少ない金額の投資によって「対抗軸をつくる」なんて、まるで風車に向かって突撃するドン・キホーテみたいである。その話を真に受けたかのように報じる日本のメディアもどうかしている。「たった645億円で『ファーウェイに対抗する』なんてバカなことを言っていますが」と解説付きで報じるべきではないだろうか。

その後の報道によれば、NECの新野社長は研究開発や設備投資に「645億円しか使わないということではない」(『日本経済新聞』2020年7月3日)と発言しているので、さすがに竹槍で戦闘機に対抗するような話ではないようである。それにしても、NECの2018年度の研究開発費は1081億円、NTTは2113億円で、両者の研究開発の総力を結集してもファーウェイの15%にすぎない。仮にNECとNTTのエンジニアがファーウェイの何倍も優秀だとしてもおよそ「対抗軸」にはなりえない。

N T T-N E Cは世界9位

しかも、残念ながらNECとNTTのエンジニアがファーウェイの何倍も優秀だということを証明する客観的データはない。2019年秋までの時点で5Gの標準必須特許として宣言された特許ファミリー数を比較すると、ファーウェイが3325件で世界でもっとも多く、全体の15.8%を占めている(図参照)。韓国のサムスンとLG電子がそれに次ぎ、ノキア(フィンランド)、ZTE(中国)、エリクソン(スウェーデン)と世界の有力な通信機器メーカーが名を連ねている。

marukawa5gchart.png

NECが持つ5Gの標準必須特許はわずか114件(0.5%)にすぎない。NTTドコモが754件持っているので、両者を合わせると868件(4.1%)になるが、これでも世界9位でファーウェイの背中は遠い。

日本の報道ではいまだに5Gに「次世代通信」というまくら言葉をかぶせることが倣いになっているが、すでに2019年に韓国、アメリカ、中国でサービスが始まり、日本でも今年始まったので、次世代というよりすでに「現世代」になりつつある。5Gの技術開発は各国のメーカーがめいめい勝手に行っているのではなく、「3GPP」という国際標準化団体に各国・各メーカーのエンジニアたちが集い、標準化した結果を年1回ぐらいのペースで発表している。今年7月にはその16番目のバージョンが出たばかりである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story