GDP統計の修正で浮かび上がった中国の南北問題
黒竜江省ハルビン市の端に位置する双城区の診療所の前に座る高齢者。中国東北部は貧しい上に高齢者問題がのしかかる(写真は2011年) David Gray-REUTERS
<沿海部が発展しているが内陸部は貧しい、という従来の常識は過去のもの。豊かな南部と貧しい北部の南北格差が広がっている>
新型コロナウイルスの思いがけない流行のため、すっかり影に隠れてしまったが、実は今年2月に公表された2019年の中国各省のGDPは驚くべきものであった。
まずびっくりしたのが天津市のGDPの実額が前の年に比べて25%も減ってしまったことである。天津が大不況に陥っているという話もなく、2019年のGDP成長率は4.8%と、中国の他の地域より低いながらもまずまずの成長をしている。いったいなぜGDPが25%も減るのか。
不思議なことは他にも起きていた。吉林省のGDPは前年より22%減少し、黒竜江省も17%減少していたのである。
逆に急増した地方もある。その筆頭が雲南省で、2019年は前年に比べてGDPの実額が30%も増えている。安徽省も24%増えているし、福建省は18%も増えている。
何が起きたのかというと、要するにGDP統計の修正が行われたのである。ありていに言えば、天津市、吉林省、黒竜江省はGDPをこれまでだいぶ水増ししていたし、雲南省、安徽省、福建省はだいぶ過少報告していたのであるが、それが2019年の統計で修正されたのだ。
中国では一般的な傾向として、地方政府はGDPの規模や成長率を水増ししたがる傾向がある。それは中国の地方の官僚の出世が、地方のさまざまな統計の実績によって左右されるからで、なかんずく地方のGDP成長率は出世を決める代表的な指標とされてきたからである。ある地方の首長が誇大報告をすると、その政治的ライバルである他の首長も負けないように誇大報告をせざるをえない。胡錦涛政権第2期の2007年~2012年にそうした誇大報告競争が激化し、2012年には全国の31の省、市、自治区のGDPを合計すると全国のGDPを11%も上回ってしまった。
ちなみに、中国全体のGDPは中央政府の国家統計局が独自に推計しており、各省から上がってくるGDPを合計して中国全体のGDPにしているわけではない。だから、こういう矛盾が起きるのである。
水増しは根絶する!
31の省、市、自治区の合計が全国より多く、しかも両者の差がだんだん開いているということは、地方政府による水増しの存在を強く示唆する。習近平政権になってから、中国政府はこういう状況は是正しなければならないと決意を固め、地方のGDPはそれより一つ上の階層の政府が作成するという改革の方針を決めた。例えば四川省のGDPを従来は四川省政府の統計局が計算していたが、これからは一つ上の階層である中央政府の国家統計局が作成するようになる。四川省など省レベルの政府はそれより一つ下の階層である成都市や綿陽市など市レベルのGDP統計を作成する。要するに、いままでは生徒自身が自分で成績をつけていたが、これからは先生が成績をつけることにしたのである。
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