GDP統計の修正で浮かび上がった中国の南北問題
国家統計局は2013年頃からこうした改革の方針を示し、2015年からの実施を目指すとしていた。改革の実施は遅れてしまったが、改革方針をアナウンスした効果はあったようで、地方政府による誇大報告は2014年以降次第に収まっていった。遼寧省や内モンゴル自治区などはこれまでGDPを水増ししていたことを事実上認め、2016年と2017年にGDPの実額を大幅に下方修正した。
そしていよいよ今年から省レベルのGDP統計を中央政府が作成することになった。そのための準備として、まず2019年には省レベルの統計局が市レベルのGDP統計を作成した。2019年に省レベルのGDPに大幅な変化があったのは、この第一段階の改革の成果であろう。
水増しや過少報告が修正された2019年の各省のGDPを見てみると、これまでの中国経済に対する見方を大きく変えなければならないことに気づく。今までの常識は、「中国は沿海部が発展しているが、内陸部は貧しい」というものであった。しかし、修正されたGDP統計から見えてくる現実は、「中国には南北問題がある。南は発展しているが、北は没落している」というものである。内陸部の所得はたしかに相対的に低いが、近年成長が著しく、沿海部との差を詰めている地域も少なくない。
成長率で見ると、緑色の東北部が遅れているのが明かだ
国有企業が負の資産に
次の表は1人あたりGDPにおいて、全国で31ある省・市・自治区のうち各地域が第何位かを示したものである。2014年は水増しや過少報告が修正される以前、2019年は修正後の状況を示している。天津市は度重なる水増しによって2011年から2015年まで全国第1位であった。北京市、上海市よりも上だったのである。
しかし、その当時から天津市が全国1位だとはとても信じられなかった。さまざまな産業が発展している北京、上海に比べて天津はかなり見劣りしていたからである。しかも、臨海部に「中国のマンハッタン」と称するオフィスビル街を作ったあげくにその7割にテナントが入らないとか、2015年には臨海部の危険物倉庫で大爆発が起きて165人が亡くなったりとか、天津市の行政レベルはお世辞にも高いとは言えなかった。
2016年に天津市の1人あたりGDPは北京、上海に次ぐ第3位に後退し、その年から少しずつ水増し分を抜いていったが、2019年の統計で積年の水増し分を一気に抜いたようだ。その結果、天津市は江蘇省、浙江省、福建省、広東省よりも1人あたりGDPが低くなり、第7位まで下がってしまった。実感ベースから言っても、これが天津市の本来の水準なのであろう。
東北部の3省(遼寧省、吉林省、黒竜江省)も順位を大きく下げている。遼寧省は旧満州国の時代から重工業が盛んで、1950年代以降は数多くの大型の国有企業が設立されたので、1980年代には上海市と並んで最も発展した地方とみなされていた。しかし、多くの国有企業の存在が逆に負の遺産として重くのしかかり、次第に地位を落としていった。2016年以降、GDPの水増し分を抜いていったら、1人あたりGDPが全国で真ん中あたりにまで落ちてしまった。
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