GDP統計の修正で浮かび上がった中国の南北問題
もっと驚くのが吉林省と黒竜江省である。水増し分を抜いたらなんと全国最下位の近くまで落ちてしまった。これらも遼寧省と同じく国有企業の重荷に悩まされてきたが、ここまで貧しいという認識は誰も持っていなかったであろう。
一方、中部の安徽省や湖北省、沿海南部の福建省、広東省、そして西南内陸部の雲南省と貴州省が順位を上げている。
雲南省には2018年に2度訪れる機会があったが、たしかに観光業や、葉タバコや熱帯作物の農業が盛んで、成長の勢いを感じた。雲南省を飛行機で訪れる人が多いため、昆明空港の2019年の利用客数は4800万人と、日本で第2位の成田空港(4200万人)よりも多い。
また、広東省にはハイテク企業が集まる深圳市と広州市があるので、1人あたりGDPが第6位というのは納得できる数字である。それにしても人口が1億1000万人を超えている広東省の1人あたりGDPが、世界銀行の定める高所得国のラインを超える1万3561ドルになったというのはなかなかすごいことだ。
東北部が没落し、南部が興隆していることは人口の動きにも表れている。東北3省からは緩やかに人口が流出しており、2014年と2019年の人口を比べると、遼寧省は0.9%、吉林省は2.2%、黒竜江省は2.1%人口が減っている。一方、中部や南部では人口が増えており、2014年から2019年の間に広東省は7.4%、浙江省は6.2%、安徽省は4.7%人口が増えている。発展の機会を求めて東北部から中南部に移り住む人がいるためであろう。
膨大な退職者を支える
東北部にはもともと歴史の長い国有企業が多いし、1990年代に国有企業の余剰人員を削減する際に早期退職を認めたため、年金生活を送る退職者が多い。一方、広東省や福建省にはもともと国有企業が少なかったうえ、内陸部から若い出稼ぎ労働者が大量に流入してきている。こうした事情のため、現役世代と退職世代の比率が北部と南部とでは大きく異なっている。
年金保険への加入者数を見ると、広東省では現役労働者6.7人に対して退職者が1人、福建省では現役労働者4.6人に対して退職者が1人という割合である。一方、東北3省では現役労働者1.4人に対して退職者が1人である。つまり現役世代1人にかかってくる年金生活者を養う負担が3~5倍も違うのである(澤田[2020])。ちなみに、中国の年金制度は省ごとに会計が分かれている。退職者の数が地域間でアンバランスであることに配慮して、年金会計が豊かな地方から貧しい地方に資金を回す仕組はあるものの、それで負担の格差が解消されるわけではない。
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