繰り返される日本の失敗パターン
しかし、新型コロナウイルスの強い感染性を考えると、毎日発表される統計に何よりも求められるのは速報性である。統計が遅ければ、緊急事態宣言を出すタイミングが遅れるなどさまざまな問題が起きる。統計の正確性を高めるための「突合作業」はもちろん必要なことではあろうが、それは確認作業が終わったら統計を修正すればいいことで、確認できていない死者数を計上しないというのでは速報性を大きく損なってしまう。
緊急事態宣言が出たこの重要局面で厚生労働省はいったいなぜ「突合作業」に時間をかける愚を犯したのか。その理由は日本の死者数のグラフに韓国の死者数を重ねるとなんとなく想像できる(図2)。この時期には、日本の死者数が韓国の死者数に迫っていたのだ。おそらく厚生労働省は日本の死者数が韓国を超えるのを避けたかったのである。しかし、都道府県が発表する死者数を隠すわけにもいかないので、「突合作業」に時間をかけることによって国全体の死者数を見かけ上少なくした。そしてこの数字はWHOにもそのまま報告されたのでWHOのレポートでも日本の死者数はまだ韓国よりだいぶ少ないように報告されていた。
しかし、4月21日についにNHKが韓国超えの死者数を発表してしまった。厚生労働省もついに観念し、翌日には統計上の死者数を一気に91名も増やした。
これ以外にも、「クラスター潰し」という当初はうまくいっていた感染拡大防止の戦略に固執し、感染の急拡大という次の局面に対応する戦略が準備されていなかったなど、旧日本軍の失敗パターンを想起させる事例はまだまだある。ただし戦前との重要な違いは、現在ではこうして日本政府の失敗を批判する言論の自由があることである。もっとも、安倍首相と親しいある評論家が、厚生労働省の戦略に批判的なテレビ番組に対して電波使用を停止すべきだなどと言い出した。仮にそんなことになれば、日本政府の失敗を止めるものはもう何もなくなってしまう。
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