コラム

繰り返される日本の失敗パターン

2020年05月02日(土)17時15分

前述の感染症研究所の研究によれば、日本で3月末以降感染が拡大しているウイルスは欧州のウイルスと遺伝子型が似ているという。つまり、日本政府は韓国にだけは果断に入国拒否したが、イタリアなど欧米各国に対しては情緒に引きずられて入国を遮断するタイミングを逸し、そのためにウイルスの流入を招いてしまったのである。

4.厚生労働省による統計操作

太平洋戦争で日本の敗色が濃くなっていった時、大本営が国民に対して戦況を歪曲して伝えていたことはよく知られている。今日の日本政府が戦時中の大本営並みに情報を歪めているということはもちろんない。だが、厚生労働省は日本の患者数や死者数を意図的に少なく見せかけようと小細工を弄しており、不信感を抱かずにはいられない。

例えば、ダイヤモンド・プリンセス号(DP号)の扱いが挙げられる。2月下旬の時点では、日本の感染確認数の8割がDP号の乗員・乗客だった。その時にはまだ東京オリンピックの延期は決まっておらず、厚生労働省はDP号での感染数を「日本」に含めないことによって日本の感染者数を少なく見せようとした。

厚生労働省はWHOが毎日発表している世界の感染状況のレポートにおいてもDP号を日本に含めず、別立てで発表するよう求めたようである。そのため、WHOのレポートでも2月下旬から今日に至るまでDP号の患者数・死者数はずっと日本に含まれず、別立てで発表されている。

その後も世界のあちこちでクルーズ船における感染拡大が起きたが、クルーズ船の乗員・乗客のなかの感染者数がWHOのレポートで別立てになっているのは後にも先にもDP号だけである。つまり、クルーズ船を自国の統計から除外して自国の数字を小さく見せかけるという操作を行ったのは日本だけだということがWHOのレポートを通じて日々世界に向けて発信される、という大変恥ずかしいことになっている。

私が気づいた厚生労働省によるもう一つの統計操作は新型肺炎の死者数に関するものである。図2は4月に入ってからの日本と韓国の死者数の推移を示している。注目していただきたいのは、4月10日まではNHKが都道府県から情報を集めて発表する死者数と厚生労働省が発表する死者数とが一致していたのが、4月11日から21日まで両者の乖離が次第に大きくなっていったことである。この時何が起こっていたのかというと、厚生労働省のホームページによれば、「都道府県から公表された死亡者数の一部については個々の陽性者との突合作業中のため、計上するに至っていない」とのことである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー

ワールド

ローマ教皇の容体悪化、バチカン「危機的」と発表
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story