コラム

消費税ポイント還元の公式アプリが「使えない」理由

2019年10月16日(水)21時14分

消費増税とポイント還元制度のスタートに伴い、キャッシュレス決済を呼び掛ける東京・巣鴨の商店街(10月1日)

<消費増税に伴う景気悪化を防ぐ重要政策であるはずのポイント還元事業のアプリの使えなさにあちこちから悲鳴が上がる。そこには旧日本軍以来の日本の失敗パターンが見える>

10月1日に消費税が10%に引き上げられ、それとともにキャッシュレスで決済するとその5%または2%分をポイントで還元してくれる制度が始まった。経済産業省によると、最初の1週間にポイント還元の金額が1日平均8億円あったという。この発表をNHKは受け売りして、「滑り出しは順調だ」と報じた。

だが、経済産業省はこのポイント還元制度に2800億円もの国費を投じるのである。還元が行われるのは9カ月間だから1日あたりにすると10億3700万円。1日あたり8億円の還元では、用意した予算が600億円以上余る計算となる。これで果たして順調といえるのだろうか。

このポイント還元事業のなかで、「日本の官僚の質が劣化したことを痛感させられた」と識者たちを嘆かせているのが、ポイント還元が行われるお店の場所を地図上に表示するスマホのアプリである(下の写真)。経済産業省から委託を受けてポイント還元事業を実施している一般社団法人キャッシュレス推進協議会が作ったものだ。

photoa.PNG

アップルストアでダウンロードした人々の評判も散々である。

「これを作った人は馬鹿なのかな?と思いました」

「やっつけ仕事としか思えない出来ばえです」

「税率を引き上げるのにこんな使い方って、今の政府は正真正銘のア〇なのですか?」

「とにかくひどい!」

平等院鳳凰堂の中にガソリンスタンド?

評判が悪いのもむべなるかな、まず地図上で表示されるお店の場所がムチャクチャである。中日新聞の報道によると、平等院鳳凰堂のお堂の中にガソリンスタンドが出現するそうである。さすがに新聞で報道されたせいか、私が確認した10月14日の時点ではガソリンスタンドは鳳凰堂から別の場所に移動していた。ただアプリ上では、その場所にさまざまな地番の店舗が密集しているように表示される。つまり、騒がれたのでとりあえず表示場所を移しただけで、依然として表示場所は誤っている可能性が高い。

また、東北大学の友人が教えてくれたのだが、東北大学川内キャンパスにあるお店の多くが大学の植物園のど真ん中にあるかのように表示される(下の写真)。青葉城跡にある牛タンのお店も植物園内にも出店したかのように表示される。

photob.PNG

アプリにはそれぞれのお店でどのようなキャッシュレスの決済手段が使えるかが表示されるのだが、それも誤りが多くて、本当は使えるクレジットカードが使えないことになっていたり、逆に本当は使えないLINEペイが使えることになっていたりするらしい。

<参考記事>消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャッシュレス「護送船団」

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、トランプ関税発表控え神経質

ワールド

英仏・ウクライナの軍トップ、数日内に会合へ=英報道

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ反発、大幅安から切

ビジネス

米利下げ時期「物価動向次第」、関税の影響懸念=リッ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story