エスカレーター「片側空け」の歴史と国際比較
理想を言えば、エレベーターが混み合っているときは2列で立って乗り、比較的空いている時には急ぐ人に配慮して片側を空けるといった風に臨機応変にできればいい。首都圏の鉄道会社はエスカレーターでは止まって手すりにつかまるよう求めているが、空いているときに歩いて上るぐらいは何の害もないのではないかと思う。鉄道会社が、エスカレーターを歩くのは危ないから、あるいはエスカレーターは止まって乗るように設計されているから歩いてはいけない、というのはいかにも建前っぽくて白々しい。それゆえに、鉄道会社の呼びかけにいま一つ本気度が足りないように感じられるし、乗客たちへの説得力も弱い。
ただ、片側空けが人々の思いやりによって行われているのではなく、恐怖に支配された結果だとすれば、建前であれ何であれ、一度この慣習をリセットしたほうがいいように思えてくる。問題は、どうやってやめさせるかである。
あおり運転は取り締まれるが
あおり運転についていえば、東名高速での夫婦死亡事件が社会的に大きな注目を浴び、警察が取り締まりを強化したことで、以前に比べてかなり減ったように思う。エスカレーターに関しても、問題となる行動は片側を空けて乗ることでも、歩いて上ることでもなく、前に立つ人を威嚇したり、押したりすることであるはずなので、そうした「あおり行為」さえやめさせることができればエスカレーターが恐怖に支配されることもなくなる。ただ、あおり運転は道路交通法によって処罰の対象となるのに対して、エスカレーター上での軽微な迷惑行為をどういう法的根拠によってやめさせるかはかなりの難題であろう。
となると、あとは鉄道駅などで粘り強く呼びかけを続けるぐらいしか対策が思い当たらないが、とりあえず以下のような点を提言しておく。まず、個々の鉄道会社でバラバラに取り組むのではなく、首都圏の鉄道会社で一斉にキャンペーンを始めたほうがいい。また、標識はサンパウロ地下鉄のように「2列に立って乗れ!」などと単純明快に示し、くどくどと理由を説明しない方がよい。そして、短期間のキャンペーンで終わらせるのではなく、この慣習がリセットされるまで続けるべきである。
※5月14日号(5月8日発売)は「日本の皇室 世界の王室」特集。民主主義国の君主として伝統を守りつつ、時代の変化にも柔軟に対応する皇室と王室の新たな役割とは何か――。世界各国の王室を図解で解説し、カネ事情や在位期間のランキングも掲載。日本の皇室からイギリス、ブータン、オランダ、デンマーク王室の最新事情まで、21世紀の君主論を特集しました。
EVと太陽電池に「過剰生産能力」はあるのか? 2024.05.29
情報機関が異例の口出し、閉塞感つのる中国経済 2024.02.13
スタバを迎え撃つ中華系カフェチェーンの挑戦 2024.01.30
出稼ぎ労働者に寄り添う深圳と重慶、冷酷な北京 2023.12.07
新参の都市住民が暮らす中国「城中村」というスラム 2023.11.06
不動産バブル崩壊で中国経済は「日本化」するか 2023.10.26
「レアメタル」は希少という誤解 2023.07.25