コラム

米中貿易戦争が起きたら、漁夫の利を獲りに行け

2018年04月13日(金)19時25分

中国のこうした行為に対抗するために、USTRは中国が産業政策を使って発展させようとしている産業、とりわけ2015年に発表された「中国製造2025」に列挙された産業に狙いを定め、それに属する品目に25%の関税をかけるとしている。アメリカの真の狙いがハイテク産業で台頭する中国を叩くことにあるのは明らかである。

ただ、すぐさま湧き上がってくる疑問は、「中国製造2025」にある分野(次世代情報技術、高性能工作機械とロボット、航空宇宙、海洋エンジニアリングとハイテク船舶、先端的鉄道設備、新エネルギー自動車、電力設備、農業設備、新素材、バイオ医薬と高機能医療器械)を叩こうとしても、そもそもそんなハイテク製品を中国がアメリカにどれだけ輸出しているのか、である。

またハイテク機器の輸入があるにしても、アメリカ企業が中国で生産しているものも多いはずで、そういうものにまで課税するとアメリカ企業の利益を損なうことになる。

実際に制裁課税の対象として挙げられている1333品目を見てみると、化学合成医薬、タイヤ、鋼材、アルミ、皿洗い機、消火器、オートバイなど「中国製造2025」とは関係なさそうな品目も多い。要するに「輸入500億ドル分」に課税しろとトランプがUSTRに指示したものの、USTRがアメリカ企業の利害に直接かかわるものを除外していった結果、「中国製造2025」とは無関係の品目まで含めることで辻褄合わせをしなければならなくなったようだ。

トランプ政権のこうした攻撃に対して、中国は4月4日に報復措置を打ち出した。その内容は大豆、トウモロコシ、綿花、牛肉、オレンジジュース、ウィスキー、たばこ、オフロード車、ハイブリッド自動車や電気自動車、プラスチック、航空機など106品目に対して25%の課税をするというものである。

報復の応酬は危険

するとトランプはその翌日さらなる対抗措置として1000億ドル分の輸入に対する課税を検討するようUSTRに指示した。ただこちらのほうは本稿執筆時点では何に課税するか明らかにはなっていない。おそらくUSTRはトランプが適当に叫んだ「1000億ドル」という数字にどう辻褄を合わせたらいいのか困っているのではないだろうか。

仮に世界1位と2位の経済大国が互いに相手からの輸入を制限しあう事態になれば、世界経済にとって誠にゆゆしき事態であることは言うまでもない。

輸入品価格の上昇による国内需要の減少、および相手国への輸出の減少により、米中のGDPにそれぞれマイナスの影響が生じ、それは日本など第3国の米中に対する輸出にも悪影響を与える。さらに貿易戦争が第2次世界大戦につながった歴史の教訓も思い起こすべきである。米中貿易戦争をやめさせることは世界全体の利益にかなう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story