米中貿易戦争が起きたら、漁夫の利を獲りに行け
中国のこうした行為に対抗するために、USTRは中国が産業政策を使って発展させようとしている産業、とりわけ2015年に発表された「中国製造2025」に列挙された産業に狙いを定め、それに属する品目に25%の関税をかけるとしている。アメリカの真の狙いがハイテク産業で台頭する中国を叩くことにあるのは明らかである。
ただ、すぐさま湧き上がってくる疑問は、「中国製造2025」にある分野(次世代情報技術、高性能工作機械とロボット、航空宇宙、海洋エンジニアリングとハイテク船舶、先端的鉄道設備、新エネルギー自動車、電力設備、農業設備、新素材、バイオ医薬と高機能医療器械)を叩こうとしても、そもそもそんなハイテク製品を中国がアメリカにどれだけ輸出しているのか、である。
またハイテク機器の輸入があるにしても、アメリカ企業が中国で生産しているものも多いはずで、そういうものにまで課税するとアメリカ企業の利益を損なうことになる。
実際に制裁課税の対象として挙げられている1333品目を見てみると、化学合成医薬、タイヤ、鋼材、アルミ、皿洗い機、消火器、オートバイなど「中国製造2025」とは関係なさそうな品目も多い。要するに「輸入500億ドル分」に課税しろとトランプがUSTRに指示したものの、USTRがアメリカ企業の利害に直接かかわるものを除外していった結果、「中国製造2025」とは無関係の品目まで含めることで辻褄合わせをしなければならなくなったようだ。
トランプ政権のこうした攻撃に対して、中国は4月4日に報復措置を打ち出した。その内容は大豆、トウモロコシ、綿花、牛肉、オレンジジュース、ウィスキー、たばこ、オフロード車、ハイブリッド自動車や電気自動車、プラスチック、航空機など106品目に対して25%の課税をするというものである。
報復の応酬は危険
するとトランプはその翌日さらなる対抗措置として1000億ドル分の輸入に対する課税を検討するようUSTRに指示した。ただこちらのほうは本稿執筆時点では何に課税するか明らかにはなっていない。おそらくUSTRはトランプが適当に叫んだ「1000億ドル」という数字にどう辻褄を合わせたらいいのか困っているのではないだろうか。
仮に世界1位と2位の経済大国が互いに相手からの輸入を制限しあう事態になれば、世界経済にとって誠にゆゆしき事態であることは言うまでもない。
輸入品価格の上昇による国内需要の減少、および相手国への輸出の減少により、米中のGDPにそれぞれマイナスの影響が生じ、それは日本など第3国の米中に対する輸出にも悪影響を与える。さらに貿易戦争が第2次世界大戦につながった歴史の教訓も思い起こすべきである。米中貿易戦争をやめさせることは世界全体の利益にかなう。
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