米中貿易戦争が起きたら、漁夫の利を獲りに行け
ドイツは中国のEV市場で先行している(写真は2017年6月、VWと中国企業のEV合弁契約を見守る中国の李克強首相=後列左=とメルケル独首相=同右) Fabrizio Bensch- REUTERS
<報復合戦がエスカレートすれば世界経済縮小の危機だが、ドイツや日本がこの危機をチャンスに変えれば、米中も我に返るだろう>
ドナルド・トランプは大統領選挙戦のなかで、中国からの輸入に一律45%の関税をかける!とうそぶいていた。だから、大統領になったら最初のうちこそは反ダンピング課税やセーフガードといったWTOルールに基づく保護措置を使うものの、やがてそうした手段では手ぬるいとして、通商法301条に基づく制裁をする可能性もある、そうなると中国も報復をするに違いない、と私は2017年4月に発表した論考「世界の政治・経済は不安定化」(『現代の理論』通巻36号)で予測した。
残念ながら悪い予感が当たってしまった。
2018年3月22日にトランプ大統領は、中国による知的財産権の侵害によってアメリカが膨大な不利益を被っているとして、通商法301条に基づき中国からの輸入品に高い関税をかけると宣言した。課税対象のリストは1333品目、輸入額500億ドルに及ぶ。リストのなかから具体的にどれに課税するかは今後1、2カ月で決める。
通商法301条というのは、貿易相手国の不当で差別的な行為によってアメリカの通商が阻害されている場合に相手国からの輸入品に対する課税などの制裁を行う権限を大統領に与えるものである。
日本も泣かされた
日本とアメリカの貿易摩擦が激しかったころは日本もさんざん301条に泣かされてきた。アメリカが実際に制裁関税を課すには至らなくても、制裁するぞと圧力をかけるたびに日本は輸出自主規制を約束するなどしてアメリカに譲歩した。
長く続いた日米貿易摩擦の終盤にあたる1995年には、アメリカは日本の自動車補修部品市場の閉鎖性に対する制裁として日本製高級車13車種に対して100%の関税をかけると宣告した。13車種の輸出額は59億ドルで、それは日本の補修部品市場の閉鎖性によるアメリカの被害額とおおむね見合っている、という理屈だった。
最終的には日本側が自動車メーカーの海外生産、アメリカ車の輸入拡大、アメリカ製部品の購入などを約束したため、アメリカは制裁の実施を見送った。
このように、通商法301条の大きな特徴は「江戸の敵を長崎で討つ」ことができる点にある。
反ダンピングやセーフガードなど他の保護手段の場合、例えば中国産太陽光パネルの輸入急増で国内の生産者の経営が悪化していれば、太陽光パネルの輸入に課税する、というように、国内の被害を認定し、それを引き起こす原因である輸入に対策をとることになる。
ところが301条を使えば、自動車部品の輸出障壁に対する報復を高級車輸入に対して行うことができる。
今回アメリカが問題にしているのは、アメリカ通商代表部(USTR)の文書によれば、(1)アメリカ企業の中国進出に際して出資比率の制限などによって技術移転をするよう仕向けていること、(2)技術輸出入管理条例によって中国側に有利な条件で技術移転が行われるよう仕向けていること、(3)中国政府が中国企業によるハイテク分野のアメリカ企業の買収を支援していること、(4)中国がネットワークへの不正な侵入によって商業秘密を獲得していることである。
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