コラム

米中貿易戦争が起きたら、漁夫の利を獲りに行け

2018年04月13日(金)19時25分

ドイツは中国のEV市場で先行している(写真は2017年6月、VWと中国企業のEV合弁契約を見守る中国の李克強首相=後列左=とメルケル独首相=同右) Fabrizio Bensch- REUTERS

<報復合戦がエスカレートすれば世界経済縮小の危機だが、ドイツや日本がこの危機をチャンスに変えれば、米中も我に返るだろう>

ドナルド・トランプは大統領選挙戦のなかで、中国からの輸入に一律45%の関税をかける!とうそぶいていた。だから、大統領になったら最初のうちこそは反ダンピング課税やセーフガードといったWTOルールに基づく保護措置を使うものの、やがてそうした手段では手ぬるいとして、通商法301条に基づく制裁をする可能性もある、そうなると中国も報復をするに違いない、と私は2017年4月に発表した論考「世界の政治・経済は不安定化」(『現代の理論』通巻36号)で予測した。

残念ながら悪い予感が当たってしまった。

2018年3月22日にトランプ大統領は、中国による知的財産権の侵害によってアメリカが膨大な不利益を被っているとして、通商法301条に基づき中国からの輸入品に高い関税をかけると宣言した。課税対象のリストは1333品目、輸入額500億ドルに及ぶ。リストのなかから具体的にどれに課税するかは今後1、2カ月で決める。

通商法301条というのは、貿易相手国の不当で差別的な行為によってアメリカの通商が阻害されている場合に相手国からの輸入品に対する課税などの制裁を行う権限を大統領に与えるものである。

日本も泣かされた

日本とアメリカの貿易摩擦が激しかったころは日本もさんざん301条に泣かされてきた。アメリカが実際に制裁関税を課すには至らなくても、制裁するぞと圧力をかけるたびに日本は輸出自主規制を約束するなどしてアメリカに譲歩した。

長く続いた日米貿易摩擦の終盤にあたる1995年には、アメリカは日本の自動車補修部品市場の閉鎖性に対する制裁として日本製高級車13車種に対して100%の関税をかけると宣告した。13車種の輸出額は59億ドルで、それは日本の補修部品市場の閉鎖性によるアメリカの被害額とおおむね見合っている、という理屈だった。

最終的には日本側が自動車メーカーの海外生産、アメリカ車の輸入拡大、アメリカ製部品の購入などを約束したため、アメリカは制裁の実施を見送った。

このように、通商法301条の大きな特徴は「江戸の敵を長崎で討つ」ことができる点にある。

反ダンピングやセーフガードなど他の保護手段の場合、例えば中国産太陽光パネルの輸入急増で国内の生産者の経営が悪化していれば、太陽光パネルの輸入に課税する、というように、国内の被害を認定し、それを引き起こす原因である輸入に対策をとることになる。

ところが301条を使えば、自動車部品の輸出障壁に対する報復を高級車輸入に対して行うことができる。

今回アメリカが問題にしているのは、アメリカ通商代表部(USTR)の文書によれば、(1)アメリカ企業の中国進出に際して出資比率の制限などによって技術移転をするよう仕向けていること、(2)技術輸出入管理条例によって中国側に有利な条件で技術移転が行われるよう仕向けていること、(3)中国政府が中国企業によるハイテク分野のアメリカ企業の買収を支援していること、(4)中国がネットワークへの不正な侵入によって商業秘密を獲得していることである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、トランプ関税発表控え神経質

ワールド

英仏・ウクライナの軍トップ、数日内に会合へ=英報道

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ反発、大幅安から切

ビジネス

米利下げ時期「物価動向次第」、関税の影響懸念=リッ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story