EVシフトの先に見える自動車産業の激変
さらにここにEVシフトの影響が加わる。EVは、電池、モーター、コントロールユニットなどいくつかのユニット部品を組み合わせて作れるものなので新規参入が容易だ、とはよく指摘されるところである。となると、シェア自動車運営会社は、あたかもアップルがiPhoneを台湾のホンハイとぺガトロンの2社に作らせているように、複数の自動車メーカーに自社が使うEVの供給を競わせることも考えられる。要するに自動車メーカーが製造受託会社になるということだ。
そうなると、これまで自動車メーカーが付加価値の大きな割合を占めてきた状況ががらりと変わり、シェア自動車運営会社に付加価値の大きな部分を持っていかれるかもしれない。これまで日本の自動車メーカーは、内燃機関をもった自動車、そしてクルマの長期にわたる私有という前提条件によく適応してきたが、その二つの前提条件がこれから崩れるかもしれないのである。
日本にとって自動車産業はなお国際的に優位を保てる数少ない産業の一つだから、日本メーカーの競争力を削ぐような変化の到来を望まない心理が生まれるのは理解できる。だが、地球環境問題と交通の利便性という二つの課題に対して、私にはいまの日本のクルマ社会が最善の解だとは思えないのである。もし中国と欧州がEVシフトと自動車シェアリングによって二つの課題に対して現行の体制より良い解を示しうるとすれば、日本がそれに背を向けるわけにもいかなくなるだろう。
だから、日本の自動車メーカーには20年先、50年先を見据えて、先手を打ってほしいのである。「自動車産業をぶっ壊す」ぐらいの覚悟をもって、自動車シェアリングの事業に投資するようなことがあっていい。クルマ離れを嘆くのではなく、クルマを買わない・買えない人々の移動ニーズにどう応えるのかを考えてほしい。
──この記事は、電気自動車(EV)戦略についての考察の後編です。前編は「中国は電気自動車(EV)に舵を切った。日本の戦略は?」へ
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