コラム

中国は電気自動車(EV)に舵を切った。日本の戦略は?

2017年11月01日(水)18時30分

北京汽車傘下の北京新能源汽車のEV組み立てライン(北京) Kim Kyung-Hoon- REUTERS

<中国はガソリン車の購入規制でEV普及を進めるが、車離れが進む日本にそれはできない。交通の利便性を犠牲にすることなく二酸化炭素排出を削減するにはどうしたらいいのか。今回から2回に分けて検証する>

いま世界ではガソリンや軽油を使う自動車から電気自動車(EV)へのシフトを加速させる動きが活発になっている。ノルウェーとオランダは2025年からガソリン・軽油車の販売を禁止すると決めた。フランスとイギリスも2040年までにガソリン・軽油車の販売を停止するとしているし、インドや米カリフォルニア州でもそうした目標を作ろうという動きがある。

そうしたなか、世界最大の自動車市場である中国が、今年9月末にEVシフトを大きく加速させるための政策を発表した。この政策は二つの柱からなっている。一つは各メーカーが生産する乗用車の平均燃費を、2020年までに1リットル20㎞ぐらいまで改善していくことを促す政策。もう一つは、各乗用車メーカーに2019年には「新エネルギー車ポイント」を10%、2020年には12%とすることを義務づける政策である。

ポイント制をインセンティブに

この「新エネルギー車ポイント」とは、電気自動車(EV)、プラグイン・ハイブリッド自動車(PHEV)、燃料電池車(FCV)に対して与えられるものであり、EVであれば、航続距離によって異なるが1台作ればおおむね4~5ポイント、PHEVなら1台作れば2ポイントが与えられる。

例えば、年産100万台のメーカーであれば、2019年に「新エネルギー車ポイント」を10%にするために10万ポイントを獲得しなければならない。そのためにはPHEVを5万台作って10万ポイント獲得するか、またはEVを2万~2万5000台作って10万ポイント獲得しなくてはならない、ということだ。

これはなかなか高いハードルである。中国では2016年に生産された乗用車のうちEVが26万台、PHEVが8万台だったが、これは乗用車の生産台数2442万台の1.4%で、私の試算では120万ぐらいの新エネルギー車ポイントに相当する。つまり、2016年の業界全体の新エネルギー車ポイントは生産台数の5%だった。2019年の目標は10%だから、EVとPHEVの生産台数を2倍ぐらいに増やさなければならない。

この「新エネルギー車ポイント」制度は中国の自動車メーカーを大きく後押しすることになる。なぜならいくつかの中国系メーカーが2016年時点ですでに10%の目標をクリアしているからである。

2016年には、中国におけるEV、PHEVの生産台数の9割を中国ブランドのメーカーが占めた。なかでも比亜迪(BYD)は2016年に9万6000台のEVとPHEVを生産し、世界のトップだった。BYDの自動車生産台数は全部で42万台ほどだったので、BYDは2016年の時点ですでに新エネルギー車ポイントが50%を超えていたとみられる。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、出産費用「自己負担ゼロ」へ 人口減少に歯止め

ワールド

ロシア中銀、ユーロクリアを提訴 2300億ドルの損

ワールド

中国が岩崎元統合幕僚長に制裁、官房長官「一方的措置

ビジネス

フジHD、33.3%まで株式買い増しと通知受領 村
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story