コラム

中国は電気自動車(EV)に舵を切った。日本の戦略は?

2017年11月01日(水)18時30分

一方、外資系メーカーは中国でEVやPHEVをまだほとんど生産しておらず、2019年までに新エネルギー車ポイントを10%に引き上げるのはかなり困難である。新エネルギー車ポイントが目標値に達成しない場合は他の自動車メーカーからポイントを買うことによって10%にする必要がある。つまり、2019年になれば、外資系メーカーはBYD、吉利汽車、北京汽車などEVの生産台数が多い中国系メーカーからかなりの新エネルギー車ポイントを買わなければならなくなるのである。

外資系メーカーどうしが中国市場を舞台にガソリン自動車でしのぎを削っている間に、中国系メーカーはそれぞれの地元政府とタイアップしてEV生産の実績を着々と積んでいた。中国系メーカーのEV生産が軌道に乗ってきたタイミングで打ち出された今回の政策の隠れた狙いが中国系メーカーの支援であることは疑いない。だが、この政策には二酸化炭素排出削減や大気汚染防止といった大義名分があるし、WTOに提訴されてクロと見なされるような条項も見当たらない。大変巧みな産業政策だといえる。

EVにはナンバープレート無制限

こうした展開が可能になったのは、地方政府が電気自動車の普及を後押しする政策を強力に推し進めてきたからだ。北京市、上海市、深セン市など主要都市ではガソリン乗用車に対する新規のナンバープレートの発行を抽選やオークションによって制限しているが、電気自動車にはほぼ無制限にナンバープレートを出しているし、一般の乗用車には通行制限が設けられる場合でも電気自動車だけはどこを走ってもよい。手厚いEV支援策の結果、BYDの地元、深セン市では2016年末時点でEV、PHEVの保有台数が8万台に達し、市内の乗用車・バス保有台数の2.8%を占めている。充電スタンドも3万か所以上ある。タクシーとバスのEV化が進んでいるので、街を走る車の1~2割がEVのように見える。

中国で活動する外資系メーカーのなかでEVシフトに最も積極的なのはフォルクスワーゲンで、2025年までに80車種のEVを発売し、2030年には全車種をEVにすると意気込んでいる。今年6月には安徽省の江淮汽車とEVの合弁会社を立ち上げた。フォルクスワーゲンにとって中国はヨーロッパを上回る最大の販売先であるから、中国の政策に積極的に対応していかざるを得ないのである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米セントルイス連銀総裁、雇用にリスクなら今月の追加

ワールド

トランプ氏、ウクライナ大統領と会談 トマホーク供与

ワールド

米ロ結ぶ「プーチン—トランプ」トンネルをベーリング

ビジネス

米中分断、世界成長に打撃へ 長期的にGDP7%減も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 5
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 9
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 10
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story