コラム

中国は電気自動車(EV)に舵を切った。日本の戦略は?

2017年11月01日(水)18時30分

中国とヨーロッパがEVシフトを加速するなかで、日本の自動車メーカーの対応は後手に回っているように見える。自動車アナリストの中西孝樹氏のように、日本メーカーはEV化を遅らせよと主張する人もいる(「欧中主導のEVシフトに"抵抗"必要」SankeiBiz、2017年10月20日)が、大局を見誤ったこうしたタクティクスは日本メーカーの競争力を弱めるばかりであろう。もし日本メーカーが中国市場や欧州市場なんてどうでもいい、日本に引きこもるのだ、というのであれば、EVに取り組まないという選択肢もあろうが、中国・欧州を攻めるつもりがあるのならEVをやるしかない。日系メーカーにとって問題はおそらくEVを作ることよりも、どうやって販路を見つけるかである。この点は中国メーカーのひそみに倣い、まずは地元のタクシーやカーシェアなどのサービスとタイアップして地域でのプレゼンスを高めることから始めるのが現実的である。

では日本国内ではどのようなエコカー政策をとるべきだろうか。日本政府はこれまでエコカー(EV、PHEV、FCV)を購入するユーザーに対して補助金を出したり、充電ステーションや水素ステーションの設置に対する補助金を出してきたが、2015年末時点でのエコカー保有台数はEVが8万台、PHEVが5万7000台、FCVが630台で、全自動車保有台数に占める割合はわずか0.18%にすぎない。日本政府は2015年のパリ協定で、2030年までに温室効果ガスの排出を2013年に比べて26%削減すると約束した以上、エコカーの普及をもっと加速させる必要がある。

盛り上がらないエコカー政策

ただ、エコカーの効果を考えるうえで大事なことは、車単独でとらえるのではなく、交通システム全体のなかでの二酸化炭素排出をどう削減するかである。早い話、自家用乗用車の保有を禁止し、自動車はトラックとバスとタクシーだけにすれば、運輸部門から排出される二酸化炭素は半分になり、日本全体として二酸化炭素排出が8%減ることになる。もちろんそんな極端な政策はまったく現実的ではないが、交通の利便性を犠牲にすることなく、二酸化炭素排出を削減するアイディアをいろいろ出していくことが大事だ。今回と次回のコラムの二回に分けてこの問題を論じていきたい。

日本政府がエコカー普及策をやってはいるものの、いま一つ盛り上がりに欠ける理由、それは東日本大震災後の日本では、EVがハイブリッド自動車に比べて二酸化炭素排出削減に実はたいして役立たないという問題がある。なぜなら、電源構成のなかで二酸化炭素排出の少ない原発が稼働を停止し、火力発電の割合が高まったため、EVを普及させる意味が半減してしまったからである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米10月求人件数、1.2万件増 経済の不透明感から

ワールド

スイス政府、米関税引き下げを誤公表 政府ウェブサイ

ビジネス

EXCLUSIVE-ECB、銀行資本要件の簡素化提

ワールド

米雇用統計とCPI、予定通り1月9日・13日発表へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story