コラム

EVシフトの先に見える自動車産業の激変

2017年11月09日(木)13時51分

そして、シェア自動車にEVを使うようにすれば、シェア自動車の普及とともにEVシフトも進むことになる。もちろん、そのためにはEVを駐車するスペースにコンセントを用意し、クルマをプラグにつないだら返却が完了するようにするといった工夫が必要となる。

「EVシフト+シェア自動車」の衝撃

今までのクルマの私有を前提としたまま、ガソリンエンジン自動車をEVに切り替えようとしても、充電時間がネックとなって、なかなか進展しないだろう。しかし、私のような利用度の低いクルマ保有者がクルマの私有をやめ、シェア自動車でEVを利用するようになれば、EVシフトが一挙に進み、充電に時間がかかるというEVの欠点もカバーされる。

もちろんクルマの私有をやめることによって失うものもいろいろある。クルマで個性を表現することができなくなるし、みんな私有のクルマほどにはシェア自動車を大事にしないだろう。実際、北京で何台かシェア自動車をみたが、汚れや細かい傷がいっぱいついていた。Gofun出行ではシェア自動車の利用前と利用後にクルマの写真を三枚ずつ撮ることを義務付けることで利用者にクルマを大事に使うよう促している。

togo.JPG
北京で見かけたTOGOのシェア自動車。車はベンツのスマート。自分の車ほど大事にしないので、車体に傷があるのは普通 Tomoo Marukawa

EVシフトとシェア自動車の広まりは自動車産業に計り知れないインパクトを与える。これまでのクルマ私有生活では、一台のクルマを長く使い続けるので、クルマの耐久性およびメーカーによるアフターサービス態勢がしっかりしていることが購入を決めるうえでの大事な要素だった。ところが、シェア自動車においてはクルマのメンテナンスはその運営会社の責任となるので、ユーザーは車の耐久性とかアフターサービスなどは気にしなくてもよくなる。利用者はどのシェア自動車運営会社が自分のニーズに合ったスペックのクルマを用意し、クルマを良い状態に保っているかだけを見るようになり、そのクルマがどこのメーカーの作った何という車種かは気にしなくなる。

したがって、シェア自動車が私有自動車より優勢になったあかつきには、自動車メーカーは産業の主役の地位から滑り落ちることになる。自動車メーカーは消費者向けにコマーシャルを流すよりも、シェア自動車運営会社に売り込むことのほうに力点を置くようになる。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き

ビジネス

トランプ氏、ビットコイン戦略備蓄へ大統領令に署名

ビジネス

米ウォルマート、中国サプライヤーに値下げ要求 米関
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story