コラム

自転車シェアリングが中国で成功し、日本で失敗する理由

2017年09月13日(水)17時30分

marukawa170913-2.jpg
スマホでモバイクの自転車のQRコードを読み取るユーザー(広東省広州市) REUTERS

私が中国で利用しているモバイク(Mobike)の場合、登録したあとで、実際に自転車を利用するにはスマホを2回タッチするだけでよい。すなわちアプリを起動し、QRコードを読み取るボタンをタッチし、スマホのカメラを自転車に印刷してあるQRコードに向ける。これで自転車が解錠され、乗車できる。

ドコモ・バイクシェアの場合、まずブラウザを立ち上げ、自転車シェアリングのホームページを開き、IDとパスワードを入力してログイン、自分が今いる区と置き場を選び、目の前にある自転車と同じ番号をタッチする。すると「貸出手続き完了」というメールがスマホに届き、そこに書かれてある4桁のパスコードをシェア自転車に備わっているテンキーに入力することでようやく自転車が解錠される。ここまで至るのにスマホを20~30回タッチし、メールを受け取り、自転車のテンキーも押さなくてはいけない。

不便なのに高コストの電動アシスト付き

どうもドコモのおじさんたちは、日本人は携帯電話やスマホをプチプチ押すのが好きだ、押す回数が多ければ多いほどみんな喜ぶという前提でこの仕組みを設計したとしか思えない。その結果、モバイクなら5秒程度で完了する手続きがドコモだと1分以上かかってしまう。

また、自転車を借りたり返したりする置き場を事前によく調べておかないと置き場を求めてさまようことになる。置き場をスマホの地図上に示す機能はもちろんあるのだが、自分の居場所と置き場の場所を同じ地図上に示すことができない。そのため、二つの地図を交互に開かざるをえない。モバイクの場合は、自分とモバイクのシェア自転車の場所が同じ地図上に示されるので、視野の範囲にモバイクの自転車がなくても5分程度のうちに見つけることができる。

ドコモのシェア自転車は使い勝手が悪いくせに、コストはヤケにかかっている。モバイクの自転車はGPS機能とQRコードがついているだけのシンプルな作りだが、ドコモのシェア自転車は電動アシスト自転車で、大仰な端末がついている。では、自転車の稼働状況はどうだろうか。モバイクは今年4月時点で365万台のシェア自転車をばらまき、一日あたり2000万件の利用があるという。一方、東京の前に横浜、仙台、神戸、広島などで自転車シェアリング事業を展開してきたドコモの場合、2014年度には2500台を配置し、55万件の利用があったという(海老原昭「ドコモがサイクルシェアリング事業に参入した理由」『マイナビニュース』2016年5月6日)。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story