コラム

自転車シェアリングが中国で成功し、日本で失敗する理由

2017年09月13日(水)17時30分

北京市には現在17路線の地下鉄が開通しているが、目的地まで地下鉄だけで行こうとすると、けっこうな距離を歩かなくてはならないことが多い。例えば先日私が北京から長距離バスで河北省に行ったとき、ホテルから地下鉄駅まで1キロ余り歩き、地下鉄で北京を大きく半周し、さらに地下鉄駅から長距離バス・ターミナルまで1キロ歩いた。

ホテルが駅から遠いのはまだしも、長距離バス・ターミナルが地下鉄駅から1キロも離れているのは明らかに都市計画のミスである。北京の都市計画にはこの手の失敗がいっぱいある。もともと街の構造ができあがっていたところに、後から急に地下鉄を何路線も作ったものだから、駅を中心とする街作りができていない。長距離バス・ターミナルなど多くの人が往来する施設が駅から遠く離れている一方で、地下鉄駅の周りには店が一軒もなく、リアカーを引いた行商人しか見当たらないということがある。

「ラスト1キロメートル」問題

つまり、北京や他の中国の大都市では、地下鉄の路線を一生懸命に増やしたわりには、駅まで・駅から1キロ以上の距離を歩かなくてならない「ラスト1キロ問題」が相変わらず解決できていない。これがあるため、いっそ自宅から目的地まで自家用車かタクシーで行ってしまえ、ということになる。だから北京の人は東京に比べて車を使う割合が高い。

1990年代までは市民は自家用車を買えなかったし、タクシーも高かったので、最初から最後まで自転車で行く人が多かった。街には広々とした自転車道路が整備され、自転車で出かけるのは便利だった。ところが、豊かになってくると人々は自転車から自動車に乗り換えるようになり、かつての自転車道は自動車道に変えられ、車の排気ガスで空気は汚れ、自転車で出かけるのは危なっかしいし、健康にも悪いということになった。こうして2000年以降は、町中で目にする自転車の数がめっきり減ってしまった。

自転車シェアリングの登場は、こうした状況を劇的に変えた。北京でも自転車に乗っている人がすごく増え、うち7割ぐらいの人がシェア自転車を利用している。遠距離を走るよりも、地下鉄駅やバス停から目的地までのラスト1キロを乗るなど短距離の利用が多いようだ。つまり、シェア自転車は公共交通機関と相性がいい。

今年4月に出た「自転車シェアリングと都市発展白書」によると、自転車シェアリングが登場する以前、人々が出かけるときの交通手段は車が29.8%、バスと地下鉄が31.2%、自転車が5.5%だったのが、自転車シェアリングの登場によって車は26.6%に下がり、バスと地下鉄は30.7%、自転車は11.6%になったという。つまり、シェア自転車が広まったことで、車の利用が減り、バス・地下鉄の利用はあまり減っていないのである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 7
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 10
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story