コラム

雄安新区の可能性を現地でみてきた

2017年08月29日(火)11時55分

白溝にはこのほかにも靴やぬいぐるみに特化した卸売センターもあり、20年前よりだいぶ発展しているようである。ただ、雄安新区の第1期の開発地域から外れているためか、「雄安新区」に対する期待を示すような表示はみあたらなかった。

雄安特区の範囲内で観光地として有名なのは白洋淀である。昔の中国映画が好きな人であれば、1993年の映画「香魂女 湖に生きる」の舞台だといえばわかっていただけるだろう。白洋淀は河北省の最大の湖で、面積は366㎢というから琵琶湖の半分より少し大きいぐらいである。水深が浅く、湖面には葦や蓮が群生している。湖畔に温泉宿発施設が作られているところがあるものの、手つかずの自然が残っているところが多い。船でしか行けない島が数多くあり、そうした島には漁業で生計を立てる人が数千人住んでいるという。

湖畔で借りたボートを操縦する男性は、夏の観光シーズンは観光客をモーターボートで案内し、それ以外の季節は湖でザリガニや魚を捕り、秋には蓮の実を採っているという。8月の土曜日に行ったこともあり、湖面には私が乗ったような低速モーターボートだけでなく、高速モーターボートも多くて、ときどき静寂が乱されるのは残念だった。操縦していた男性も、雄安新区計画で観光客が増えるのは歓迎だけど、モーターボートが多くなっては湖水が汚れるから、将来はモーターボートが禁止されて手漕ぎボートだけになるんじゃないかと言っていた。彼は白洋淀は「手つかずの自然」だと盛んに言っていたが、それと都市開発とをどう両立させるのか、なかなか難しいところである。自然と漁業を破壊して開発した結果、ゴーストタウンができた、ということにはならないようにしてほしいものである。

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河北省の最大の湖、白洋淀 Tomoo Marukawa

雄安新区の中心部へ

白洋淀でのボート遊びを終えて、雄県に向かった。ここは雄安新区の中心部になるところで、まだトウモロコシ畑が広がっているが、方々に雄安新区に関する標語の看板が林立し、雄安への期待が最も高い地域である。すでに何かの建設が始まりそうな土地も散見された。
雄県の中心市街は人口2万人ぐらいで、一見これといった特徴のない田舎町だが、実は経済的にはかなり面白いところである。まず、ここの地下には豊富な温泉資源がある。それを観光よりもむしろ地熱資源として利用しており、雄県では暖房のための石炭ボイラーをすべて廃止して、冬季の暖房はもっぱら地熱を利用している。さらに、天然ガスの資源もあり、畑のそこかしこに天然ガスを汲み出すポンプがみられる。さらに、農村企業も盛んで、水道などに使うポリエチレン管の工場が密集した村もあれば、プラスチック包装や風船の製造が盛んな村もある。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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