コラム

アリババ帝国は中国をどう変えるのか?

2017年05月10日(水)15時18分

アリババ創業者の馬雲(ジャック・マー) Ruben Sprich-REUTERS

<白タク配車から食事配達、自転車シェアリングなど、新しいビジネスの勃興と共に街の風景ごと変わり続ける中国。その背景には、有望な新ビジネスに大金を注ぎ込み続ける中国ネット大手3社「BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)」の存在がある。今回は、そのなかでも時価総額最大アリババ帝国の全容を読み解く>

中国では、新しいビジネスが登場することによって街の様子がめまぐるしく変わりつづけている。街でタクシーが拾いにくくなって困ったなと思っていたら、白タク配車サービス(ライドシェア)がすごい勢いで広まって、車を簡単に呼べるようになった。日本ほど宅配便が発達した国はないだろうと思っていたら、中国でも宅配便のトラックが街を行き交うようになり、自転車で食事を配達するサービスも広まった。車が増えて、かつての自転車専用道も車道となり、自転車が乗りにくくなったなと思っていたら、派手な色に塗られたシェアリング用自転車が街にあふれるようになった。

tomoo170510.jpg
深センの街頭に並ぶ、食事配送サービスの自転車 Tomoo Marukawa

最初は物珍しい新ビジネスが、あっという間に街の様子を変えるぐらいに広まる、ということが半年から一年ぐらいのサイクルで繰り返されている。新ビジネスが立ち上がるとすぐに大きな資金がそこに流れ込むからだ。いったい誰が出資したのだろうと調べてみると、ほぼ必ずと言っていいほど「BAT」、すなわちインターネット検索の百度(Baidu)、電子商取引のアリババ(Alibaba)、そしてSNSのテンセント(Tencent)のどれかに行きつく。まさに「新ビジネスの影にBATあり」である。

【参考記事】メイカーのメッカ、深セン

時価総額でみると、今年5月9日時点でアリババはトヨタ自動車を1400億ドル以上上回る3000億ドルで中国企業のなかで第1位、テンセントが2996億ドルで第2位、百度は635億ドルで、アリババとテンセントは今や中国石油や中国工商銀行といった最大手の国有企業をしのぐ資金力を持つ民間企業なのである。

アリババ、苦難の創業期

中国の社会と経済を大きく変えつつあるBATとはどんな企業で、何を目指しているのだろうか? 今回はアリババについて検討する。

アリババを創業したのは1964年生まれの馬雲(ジャック・マー)だ。彼は大学受験に2度失敗したのち、地元の杭州師範学院で英語を学んだ。卒業後は杭州電子工業学院の英語教師となった。1992年に彼は先輩の英語教師たちが定年後ヒマにしているのに目をつけ、在職のまま翻訳会社を立ち上げた。

だが、翻訳収入だけでは事務所の家賃さえ払えなかった。そこで馬雲は、同じ浙江省にある義烏の小商品卸売市場に行って靴下などの日用品を仕入れ、事務所の一角で売ることによって収入を増やそうとした。

【参考記事】オーダーメイドのスーツを手頃な価格で――「マス・カスタマイゼーション」で伸びる中国のアパレルメーカー

1995年、杭州市政府から頼まれた仕事で訪米した際にインターネットと出会い、大きな可能性を感じて、帰国後に英語教師の職を辞して「中国イエローページ」というサイトを運営する会社を創業した。これは中国企業の紹介を英文で作成し、協力相手のシアトルの会社へ送ってネットのサーバーに掲載するというビジネスである。ただ、そのころ中国ではまだインターネットを閲覧できる環境がなかったので、ホームページを持つことの意義を企業に説得するのに苦労した。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story