コラム

最近、中国経済のニュースが少ない理由

2016年09月27日(火)16時00分

雨模様の分野も Nicky Loh-REUTERS

<昨年は巷に中国のニュースがあふれていたが、今年はあまりニュースが入ってこない。便りがないのは良い知らせ、ということなのか? 確かに昨年のような株価暴落もなく、景気回復の兆しも見えるのだが......>

【参考記事】イノベーションの街、深セン
【参考記事】中国のイノベーション主導型成長が始まった

「いいことばかり報道して、悪いことを報道しない(報喜不報憂)」。1990年代初めに私が北京に長期滞在していた頃、中国の知人たちは中国のメディアをこのように評していました。実際、国内で旅客機の墜落といった大きな事故があっても、テレビのニュースでは取り上げず、新聞の片隅にチラリと出る程度でした。国外のことについては逆に「悪いことばかり報道して、いいことを報道しない」傾向が顕著で、たとえばアメリカの高速道路で起きた死亡交通事故のことまでテレビの国際ニュースで取り上げられたりしました。中国国内でもっとひどい交通事故が起きてもテレビで取り上げられることなど決してないにもかかわらず。

 もっとも、国民もその辺は十分承知していて、知人も「テレビのニュースではアメリカの治安の悪さを印象づける報道ばかりしているけれど、本当はそんなの一部の場所だけでしょ」と言っていました。極端に屈折して映し出される国内外の像を、噂話と想像力である程度真実に戻すリテラシーを彼らは自然に身に着けていたようです。

 日本のメディアは幸いにしてまだそこまで歪んではおらず、国内のことについて「悪いことは報道しない」なんてことはありません。ただ、中国のこととなると、「悪いことばかり報道して、いいことを報道しない」傾向が強まっているように思います。先日、NHKテレビのニュースを見ていたら、中国の田舎の交通事故で2人死亡というニュースが映像とともに流れて、ついにNHKも中国中央電視台(CCTV)並みになったのか、と唖然としました。日本人が巻き込まれたわけでもないし、そもそも日本人が訪れる機会があるとは思えない場所で起きた、(犠牲者には申し訳ないけれども)ありふれた交通事故にどのようなニュース価値があったのか。

今年は悪いニュースが少ない

 私は今年4月から4か月間ヨーロッパにいた間に、中国のマクロ経済の最新動向に少し疎くなった気がしておりました。帰国後、遅れを取り戻すべく情報を集めるなかでわかってきたのは、疎くなったと感じたのは東京にいるときに購読していた中国の新聞が読めなくなったせいばかりでなく、中国経済の「悪いニュース」が余りなく、そのため日本のメディアが中国経済のことを余り取り上げなかったからでした。

 去年(2015年)は、中国経済がゴタゴタ続きでしたから、日本のメディアでも盛んに取り上げられました。6~7月には株価が崩壊しましたし、8月には人民元の為替レートが急落して世界に動揺が走りました。年末には人民元安を見込んだ投機のアタックがあり、中国当局は元の防衛のためにかなりの外貨準備を費やしました。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story