「東アジア共同体」を夢想する
中国のなかでも北京、上海、天津の3直轄市は一人あたりGDPがすでに1万7000ドル前後ですし、江蘇省も1万4000ドルで、これらはすでに世界銀行の「高所得国」の水準にあります。この4か「国」の人口は合わせて1億4000万人を超えています。さらに人口5500万人の浙江省、人口1億人の広東省も「高所得国」入りは間近いと思います。
中国を30以上の地域にばらしたときに、東アジアがどう見えるかを図にしてみました。この図のなかの箱は一つの国や地域を表し、その高さはその一人あたりGDPを、幅はその人口を表します。従って、箱の面積は各国・地域のGDPを表します。
一番右端に線のように見えるのはシンガポール、香港、ブルネイです。一人あたりGDPは高いものの、人口が少ないので、仮に東アジア共同体のなかで人口比によって議席が割り振られるとすれば小さな発言権しか得られないでしょう。
ナショナリズムを超えて
この図を見ると、高い所得と比較的大きな人口をもった日本は、箱の面積(GDP)で言えば東アジアのなかでかなり突出した存在のように見えます。しかし、仮に中国の江蘇省、浙江省、広東省あたりが一人あたりGDPで2万ドルぐらいまで伸びてくると、東アジアの様相もかなり変わってきます。ヨーロッパのように粒の大きさが近い高所得「国」が4つも5つもできてきます。日本にとっては高所得「国」の仲間が増えるので、高所得国に不利な決定が行われる可能性が相対的に小さくなります。広東省までが高所得「国」になるのはいつかと言えば、私はそう遠くない未来、すなわち2020年を過ぎるころには到達している可能性が高いと思います。
中国がバラバラになって東アジア共同体に加盟するというこのアイデアがいまの中国で受け入れられる可能性については残念ながら悲観的にならざるを得ません。国家統合をかえって強めているような中国の現状では、仮に夢想としてであれ、こんなことを口にすることさえ憚られる状況です。
しかしそれでも、いつか東アジアがナショナリズムの悪循環を乗り越え、国境を越えた連帯で結ばれる日が来ることを願わずにはいられません。
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