「東アジア共同体」を夢想する
一方、東アジアでは、小泉純一郎首相(当時)が日本の首相として初めて「東アジア共同体」に言及した2002年には、人口では東アジアの6%でしかない日本が、東アジアのGDPの55%を占めるという突出した経済力を持っていました。同年の東アジアにおける一人あたりGDPの変動係数は114%でした。
もしその時点で東アジア共同体が形成されていたらどうなったかを想像してみましょう。「共同体」というからには、そのなかの豊かな部分から貧しい部分へ所得を再配分する仕組みが作られるはずです(もしそういう仕組みがなく、逆に貧しい部分を豊かな部分が搾取する仕組みがあるとすれば、それは「共同体」ではなくて「帝国」と呼ぶのがふさわしいと思います)。唯一の富裕国である日本が東アジアの他の部分を助けるという構造になっていたことは疑いなく、それは日本にとって余り魅力的とは言えません。もちろん、東アジア域内市場の統合によって、域内の貧しい部分を支える負担を上回る経済的メリットが生じることを統合推進派は主張するでしょうが、2002年の時点では域内市場にどれほど期待できるのか日本企業の多くは懐疑的だったでしょう。
中国がバラバラに加盟すれば
東アジアではその後低所得国のキャッチアップが進んだので、一人あたりGDPの変動係数は2015年には105%まで縮まりますが、それでもヨーロッパに比べるとばらつきは依然として大きい状況です。
こういう状況でEUのような高度な経済統合を東アジアでおこなったら何が起きるか想像してみましょう。東アジア共同体のなかで富裕なメンバーは日本、シンガポール、ブルネイ、韓国、香港、台湾と、少数にとどまるので、共同体の中で富裕国に不利な決定がおこなわれる可能性が大です。従って、現時点では経済的観点から東アジア共同体をみた場合、日本など域内の先進国にとっては余り参加するインセンティブがないことは否めません。それよりもモノとサービスの流動性を高めるだけの自由貿易協定(FTA)を結んで、負担は回避し、薄くてもいいから経済統合のメリットだけを得ようということになりがちです。
しかし、もし中国が一つの国としてではなく、31の省・市・自治区(および台湾省、香港特別行政区、マカオ特別行政区)としてバラバラに東アジア共同体のメンバーになるとすれば、様相ががらりと変わります。
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