コラム

中国、出稼ぎ労働者の子供たちの悲しい現実

2016年04月27日(水)16時30分

北京郊外、出稼ぎ労働者の子供向けの学校。2003年の撮影当時、まだ高い学費が必要だった Jason Lee-REUTERS

 最初に私事で恐縮ですが、私は4月上旬よりベルリン自由大学の客員教授としてベルリンに滞在しております。しばらくベルリンからコラムをお送りします。

 中国の国民が農業戸籍と非農業戸籍(都市戸籍)という二つのグループに分けられており、両者の間でいろいろな待遇の差があることはよく知られています。長く不利な状況に置かれてきた農業戸籍の人々を都市に受け入れ、都市戸籍の人々と同じ権利を与えることが中国の社会の安定のみならず、経済発展のためにもどうしても必要だ、という点については、中国の指導者の間ですでにコンセンサスができています。今年3月に決定された第13次5カ年計画(2016~2020年)のなかでも農村から都市に移住してくる人たちを「市民化」すること、つまり都市戸籍の人々と平等に遇するべきだと強調されており、そうすることは地方政府の責任だ、と強い調子で書かれています。

 しかし、そうやってこぶしを振り上げている中央の足元にある北京市では、中央の方針とはまるで裏腹の現実があることをイギリスのニューカッスル大学で研究員を務めているXuefeng Wang博士の報告から学びました。

 Wang博士らは北京市郊外に居住する農村からの移住者の子供たちと北京市の都市戸籍を持っている子供たち、おのおの200人を調査しました。その結果がなかなか衝撃的だったので紹介します。

「身分違い」の子供たち

 例えば農業戸籍の子供たちに都市戸籍を持つ友だちがいるかと尋ねると、半分はいないと答えたそうです。それも年齢が上がるほど都市戸籍の友だちがいないと答える子供の割合が高まります。農業戸籍の子供たちが彼ら専用の私立学校に通っている場合もあるので、その場合には周りに都市戸籍の子供がいなくても不思議ではありません。しかし、農業戸籍の子供たちが地元の公立学校に通っている場合でも、農業戸籍の子供たちばかり67人も一クラスに押し込められていることもあったりして、地元の都市戸籍の子供たちと交流する機会が少ないのです。仮に交流する機会があったとしても、都会の子供たちはスマホを持っているのに農村出身の子供たちは持っていないなど持ち物から異なるため話が合わないそうです。

 北京市や上海市の郊外で、農村からの出稼ぎ労働者が集住しているような地域にはその子供たちを対象とした私立学校が作られてきました。それは、北京市や上海市の地元の学校に子供を通わせようとすると高額の学費を支払うよう要求されるからでした。中国でも義務教育は無償なので、地元の都市戸籍の子供たちの場合には決してそんな費用は要求されません。農業戸籍の子供たちももちろん無償で義務教育を受ける権利はありますが、それは戸籍のある土地で学校に行く場合のみだったのです。

【参考記事】都市を支える二等公民――民工の子弟たち

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story