コラム

中国、出稼ぎ労働者の子供たちの悲しい現実

2016年04月27日(水)16時30分

 今では都市に住む農業戸籍の人たちに高額の学費を要求することは禁止され、平等に扱わないとならないことになりました。しかし、実際には「寄付金」と名を変えて相変わらず農業戸籍の人たちに対する学費の要求が続いています。それも1学期3000~5000元(51000円~85000円)と、親の月給に相当するぐらいの金額を要求されるのです。地元政府が「寄付金」を要求する時の言い分は、「中央から農村からの移住者の子供たちを受け入れるよう要求されるが、そのためには教室や教師を増やさなければならないのに、その費用の手当はないので、寄付金をとるしかないのだ」というものです。

クラスも別、食堂も別

 農村からの出稼ぎ者が高額の寄付金を頑張って支払って地元の公立学校に子供を入れても、そこで待っているのは差別です。農業戸籍の子供たちは別クラスに押し込められるだけでなく、食堂も別だったりします。都市戸籍の子供の親たちは、自分の子供に農業戸籍の子供たちを助けるようには言いますが、一緒に学んでほしいとは思っていません。学力レベルが下がると思っているのです。公立学校の先生たちのなかにも4割以上が農業戸籍の子供たちは学力が低いので嫌いだと回答しています。

【参考記事】泣くも「高考」、笑うも「高考」

 中央が農村からの移住者を平等に扱えと言うので、北京の地元政府も農業戸籍の子供たちを公立学校に受け入れる制度を作っているのですが、身分証、滞留証明だけでなく、在職証明、在住証明、出身地に子供の面倒を見られる人が誰もいないことの証明を求めたり、入学申請を親がオンラインで行うことを要求しています。農村からの出稼ぎの人たちは、就業先と雇用契約を結んでいないことも多いのですが、その場合には在職証明が得られません。また、出稼ぎ者たちは所有権が完全でない住宅に間借りしていることもありますが、その場合には在住証明が得られません。さらに、インターネットにアクセスする手段がない人も多く、その場合はオンラインでの申請ができません。結局、北京市は本音では農業戸籍の子供たちを受け入れたくないので、いろいろな無理難題を課しているのです。

 このように北京市では、農業戸籍の人たちを「市民化」するどころか、完全に「二級市民」扱いしています。それも、移住してきた親たちのみならず、出生地は北京であるかもしれない二代目まで差別しています。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カナダ当局、9人死亡の銃撃事件巡りオープンAIと協

ワールド

トランプ氏、国家安保上の新関税を検討 最高裁判決受

ワールド

インスタで不適切画像目撃、10代前半の約2割がメタ

ワールド

アイルランドなど5カ国、EUの合併規則緩和に反対表
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 3
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面を突き破って侵入する力の正体が明らかに
  • 4
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 5
    ペットとの「別れの時」をどう見極めるべきか...獣医…
  • 6
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 7
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 8
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 9
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 10
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 7
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story