日本の新幹線の海外輸出を成功させるには
新たな競争相手として台頭した中国(高速鉄道「和階号」の操車場、湖北省武漢) Stringer-REUTERS
日本と中国はインドネシア・ジャワ島のジャカルタとバンドンを結ぶ高速鉄道の受注をめぐってしのぎを削ってきましたが、2015年9月29日にインドネシア政府が日本政府に対して「我々は中国案を歓迎する」と伝え、日本の敗北が決まりました。日本人が愛してやまない新幹線ですが、これまで海外への売り込みが実を結んだのは台湾だけ。それも当初はドイツ・フランス連合が受注していたのを、日本びいきの李登輝総統(当時)の介入によって、車両と信号システムは日本のものが採用されたという経緯でした(読売新聞中部社会部『海を渡る新幹線』中公新書ラクレ、2002年)。
かつてはドイツのICE、フランスのTGVが海外市場での日本の新幹線のライバルでしたが、ここへ来て中国の高速鉄道もライバルとして浮上してきました。競争が激しくなるなかで新幹線の海外売り込みを成功させるにはどうしたらいいのでしょうか。
今回、インドネシアが日本案ではなく中国案を選んだポイントはインドネシア政府の財政負担があるかないかでした。ジョコ大統領は早くから、いまインドネシアはスマトラやスラウェシの鉄道建設に重点を置くべきであってジャワ島の高速鉄道は優先順位が低いと言っていました。
それに対して、日本政府が出した案は総事業費の75%を円借款によってまかなうというものでした。円借款は国から国への援助ですから、日本案を受け入れるということはインドネシア政府が最終的な返済を保証することを意味します。しかも、円借款でまかなわれない部分についてもインドネシア政府の財政支出を求める案でした。つまり、日本案はインドネシア側が重視する条件を満たしていなかったのです。
一方、中国案は総事業費をすべて中国の国家開発銀行が融資する、というものでした。国家開発銀行は政府系銀行とはいえ、融資は年利2%という商業ベースでインドネシア側の事業主体に対して行われます。金利は日本の円借款(0.1%)より高いですし、政府保証もありませんから、中国案を採用した場合には高速鉄道の事業主体は一生懸命稼いで国家開発銀行からの借金を返済しなければなりませんし、貸す側は貸し倒れになるリスクを負います。
多くのコスト負担を約束した中国
高速鉄道を運営する側からすれば日本案の方がずっと楽なはずです。菅義偉官房長官はインドネシアが中国案を採用したことに対して「常識では考えられない」とコメントしましたが、その発言の意図は、中国案を採用したのでは高速鉄道の事業主体が借金返済に行き詰まるリスクがあるということなのだろうと思います。
EVと太陽電池に「過剰生産能力」はあるのか? 2024.05.29
情報機関が異例の口出し、閉塞感つのる中国経済 2024.02.13
スタバを迎え撃つ中華系カフェチェーンの挑戦 2024.01.30
出稼ぎ労働者に寄り添う深圳と重慶、冷酷な北京 2023.12.07
新参の都市住民が暮らす中国「城中村」というスラム 2023.11.06
不動産バブル崩壊で中国経済は「日本化」するか 2023.10.26
「レアメタル」は希少という誤解 2023.07.25