コラム

日本でも導入が進む次世代交通LRT・BRTのポテンシャル

2021年09月15日(水)19時15分
ストラスブールのLRT

欧州では人口がそれほど多くない都市でもLRTが導入されている(写真はイメージです) katatonia82-iStock

<定時性・速達性を約束し、高い輸送力でドライバー不足にも寄与──海外都市と国内での導入事例を紹介する>

渋滞や鉄道の廃線問題などを抱える都市や地域では、輸送の効率化や地域の魅力向上のために次世代交通システムの導入が推進あるいは検討されている。

2020年10月にプレ運行を開始し、東京オリンピック・パラリンピック会場となった晴海から虎ノ門ヒルズまでを結ぶ東京BRT(バス高速輸送システム)には、国産初のいすゞの連節バス「エルガデュオ」が採用された。神戸市では2021年4月より、LRT(次世代型路面電車システム)を見据えた連節バス「ポートルーフ」が走り始めた。23年春の開業に向けて準備が進む芳賀・宇都宮LRTは既存の路線を活用するのではなく、新規でLRTが建設される日本初の事例だ。

日本でも少しずつBRTやLRT、連節バスについて見聞きするようになった。

定時性や速達性を実現するバス

実はLRTと路面電車、BRTと連節バスの区別が難しい。

国内外のBRTを研究する多くの専門家は、日本の多くのBRTは「BRTではない」と主張する。またLRTも欧州のそれと比べると物足りなさを感じることも多く、路面電車との違いがよく分からない場合が多い。

BRTと呼ばれている国内の事例は10年の間で徐々に増えてきている。大船渡、日立、千葉幕張、東京、新潟、岐阜、名古屋、福岡などがある。

BRTについては、東京大学大学院新領域創成科学研究科特任教授の中村文彦氏が詳しい。海外のBRTの事例として代表的な事例は、ブラジル・クリチバ市(約180万人)、コロンビア・ボゴダ市(約780万人)、インドネシア・ジャカルタ市(約1,056万人)、オーストラリア・アデレード市(約110万人)などがある(2013年「BRTについて先行海外事例と一般論」より)。

日本人にとってはバスというより、東京や大阪といった大都市を走る軌道のない鉄道とイメージした方が分かりやすいかもしれない。農村を古い列車で走る地方鉄道よりも先進的な印象だ。バスも使い方次第で鉄道の持つ定時性や速達性、輸送力を実現できることが分かる。

海外の事例を念頭に置いた上で日本でBRTと言われている事例を今一度見てみると、BRTの研究者が日本のBRTの多くはBRTではないと主張する理由が理解しやすくなる。

国土交通省はBRTについて、「BRT(Bus Rapid Transit)は、連節バス、PTPS(公共車両優先システム)、バス専用道、バスレーン等を組み合わせることで、速達性・定時性の確保や輸送能力の増大が可能となる高次の機能を備えたバスシステム」と定義している。つまりバスが走る専用の道路、信号、停留所といった空間、定時性や速達性があることが前提となっている。

一般的なバス車両よりも輸送力があり、複数車両を繋いだ「連節バス」はBRTと似ているが、これはBRTと呼ばない。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story