コラム

日本でも導入が進む次世代交通LRT・BRTのポテンシャル

2021年09月15日(水)19時15分

LRTは国土交通省によると、「Light Rail Transitの略で、低床式車両(LRV)の活用や軌道・電停の改良による乗降の容易性、定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を有する次世代の軌道系交通システム」とされている。

国内で代表的な事例として富山と宇都宮が挙げられる。まったく何もないところからLRTを敷設するのは宇都宮が初めてだ。2006年に日本初の本格LRTとして注目を集めた富山市では、老朽化したJR西日本の富山港線を市が引き継ぎ、既存の鉄道の再生を図った。

また札幌、東京、岡山、広島、松山、高知、熊本など日本全国に路面電車が残っている。これらの路面電車を低床化し、スピード、定時性、輸送力、バリアフリー、快適性を向上させてLRT化していっている。そのため、岡山や広島などでは古い路面電車に混じってオシャレな低床式車両が走る光景も見られる。

欧州のLRTは支払環境を整え、都度払いではなく運賃箱を設けないエリア乗り放題の仕組みを運賃収受の方法として採用している場合が多い。一方、日本は交通系ICカードで都度管理している。

このような背景から、日本のLRTや低床式車両は欧州に比べると路面電車っぽさがある。日本のLRTと欧州を比較すると違和感を覚えるのはこのためだ。

公共交通として定着した欧州のLRT

LRTの海外事例については、ヴァンソン藤井由実氏の『トラムとにぎわいの地方都市 ストラスブールのまちづくり』(学芸出版社)が有名だが、テレビの旅番組などで古い歴史的建造物が立ち並ぶ中心街をLRTが周遊する風景をよく見かける。

欧州の大都市であればLRTは地下鉄やバスのように一般的な公共交通として浸透している。ストラスブール(人口約26万人)、チューリッヒ(約38万人)、ヘルシンキ(約64万人)、フライブルク・ドイツ(約20万人)など、日本の大都市ほど大きくない都市でもLRTを大胆に導入されている。

日本のようにもともと路面電車(欧州では、トラム)が走っていて、低床式車両を導入した都市もある。また単にLRTを採用するのではなく、都心の歩行者専用ゾーン化・トラムの停留所設備の整備と一体化した景観整備、自転車政策、クルマの乗り入れ制限など総合的な計画の下、都市の魅力や移動の利便性の向上を図るべく推進されている。

日本の路面電車の中にはモータリゼーションの中で廃線の危機をかいくぐり、たまたま現在まで残っている路線がある。そのため「乗ったことがない」という市民も多く、まちのアイデンティティとして路面電車が活かされていると肌感覚で感じられないことが多い。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story