コラム

移動寿命の延伸に寄与 免許返納後の生活を支える「シニアカー」の可能性

2021年08月13日(金)19時00分

ある60歳の男性によると、交友関係の広かった父はクルマに乗れなくなってからはシニアカーであちこちに出掛けて余生を楽しんだという。ある女性はカラオケ好きで1日1回歌うことを日課としていて、シニアカーをとことこと走らせてカラオケ喫茶に通っていた。この他にもシニアカーに乗っていきいきと暮らした高齢者の事例を何件も耳にした。

免許返納問題に直面する高齢者は地縁が強く、クルマを運転してもその範囲は市内に収まる人が多い。また新型コロナウイルス流行でテレワークが普及し、自宅付近で生活が完結する若者も増えた。

今はまだ珍しいシニアカーだが、クルマのように一般的な移動手段として浸透すれば、高齢者のひきこもり、家族内送迎やその仲違いが減り、自治体の医療・介護費用の負担の軽減にも寄与する部分が多いのではないかと筆者は考えている。

若者を介護から救うシニアカー

福井県勝山市では2025年以降、少子高齢化の進行によって若者が働きながら高齢者を介護しないといけないという問題に直面する。このままでは勝山が2040年には消滅してしまうと危機感を募らせている。それに対して、勝山市のまちづくり団体「ケア・ブレイクかっちゃま」は、シニアカーを活用してこの問題を解決しようとしている。高齢者ができるだけシニアカーに乗り、自分で買い物や病院に行ったり、畑仕事をしたり、友人に会いに行くなど、自立した生活を送ることで生活の質を保てると考えるからだ。

また四国などの離島では、シニアカーがたくさん走っていて、クルマに乗れなくなった女性のファーストカーとして機能している事例も耳にする。

新しいパーソナルモビリティのトレンドニュースが入ってくるたびに流行りに流されるのではなく、持続可能な地域づくりのためにどの移動手段を使うと現実的なのかを考えていく必要がある。それぞれの特性を見極めて、家族タクシーや介護に頼らずに自ら移動できる期間(移動寿命)を伸ばし、年をとっても一人ひとりがいきいきと暮らせる地域を築いていってほしいと思う。

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送(5日配信の記事)-川崎重工、米NYの地下鉄車

ワールド

アルゼンチン通貨のバンド制当面維持、市場改革は加速

ビジネス

スズキ、4ー9月期純利益は11.3%減 通期予想は

ワールド

ベトナム輸出、10月は前月比1.5%減 前年比では
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 5
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 6
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 7
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 8
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story