コラム

コロナ禍で進む自転車活用が日本の移動貧困脱却のカギに

2021年02月26日(金)12時15分

日本でこれまで自転車の位置付けが曖昧だったことはあまり知られていない。自治体の関連部署を見ても放置自転車対策が中心で、自転車を活用したまちづくりへの意識は低かった。住民が自転車を駅前で乗り捨てることによる景観の悪化のほうが行政にとっては大きな課題だったのだ。

自転車活用推進法が2017年5月に施行、18年6月に閣議決定された自転車活用推進計画によってようやく日本でも自転車の有用性が明確に認識されるようになる。自転車の価値が見直され、環境、災害、健康、まちづくり、観光などの課題解決を図るために活用が進められることになった。

2020年度から次期計画の策定に向けた有識者会議が開催されている。観光のみならず、免許返納者数が増加していることから、高齢者や障害者に対応した様々な自転車の普及・開発など"生活交通"としての自転車活用が検討されている。

徒歩と自転車で暮らせる街へ

高齢化社会に伴いクルマの運転ができない高齢者の移動手段の確保が課題となっている。国や自治体が免許返納した高齢者の送り迎えをすべて保障できないことは明白だ。家族タクシー(家族送迎)で埋め合わせをするのも大変だ。現場で声を聞くと、高齢者の多くは家族や近所の人に頼らず、自分が行きたい時に外出できる移動手段が欲しいと思っている。

筆者は公共交通から様々なパーソナルモビリティの活用を検討してきたが、自治体や住民にとっても支出が少なく、誰もが一度は乗ったことのある自転車はちょうどいいと考える(体力が低下してしまった人は乗れないが)。

クルマ登場以前からあった地方都市は、小学校区内にほとんどの生活機能が揃い、中高生は自転車で通学できるなど、徒歩や自転車で暮らせるようなコンパクトな村の集合体だったりする。したがって、徒歩と自転車で暮らせる街をつくることが大切だと考えている。新しく自転車道や歩道を作るのではなく、お金をかけずに今ある道路を上手に使うと良い。

コロナ禍を契機に、徒歩・自転車・公共交通・クルマの役割、道路の使い方をもう一度見直してみてはどうだろうか。

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物は横ばい、米国の相互関税発表控え

ワールド

中国国有の東風汽車と長安汽車が経営統合協議=NYT

ワールド

米政権、「行政ミス」で移民送還 保護資格持つエルサ

ビジネス

AI導入企業、当初の混乱乗り切れば長期的な成功可能
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story