コラム

内閣の情報機関NISCで「データ漏洩」の可能性...自身の「脆弱性」を認識できていないことの恐ろしさ

2023年08月26日(土)14時21分
サイバーセキュリティ(イメージイラスト)

BlackJack3D/iStock

<現代のサイバーセキュリティに不可欠となった「脅威インテリジェンス」と「アタックサーフェス・マネジメント」とは>

先日、日本のサイバーセキュリティ戦略本部の事務局として機能する内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が、同センターからメールデータが漏洩した可能性を発表した。

NISCによれば、内部の電子メール関連システムに対して不正通信が確認されたという。発表では、この電子メール関連システムは「メーカーにおいて確認できていなかった電子メール関連システムに係る機器の脆弱性を原因とするものであると考えられ、同様の事案は国外においても確認されています」とした。

こういう脆弱性をすべて把握して然るべき対応をしていくのは、政府機関のみならず、民間企業などにとっても課題になっている。どこから政府系アクターがサイバー攻撃を仕掛けてくるのかを知ることは現代のサイバーセキュリティにおいては不可欠で、それを実現できるのが、「脅威インテリジェンス」と呼ばれる対策だと近年、期待されてきた。

脅威インテリジェンスとは、潜在的なサイバー脅威に関する情報、つまり、サイバー攻撃者が使用する戦術や手法、手順を把握して対応するための情報のこと。冒頭のNISCのケースを例にすると、脅威インテリジェンスでは、電子メール関連システムにあった脆弱性についての様々な情報を提供することになる。

脅威インテリジェンスでは、公に入手できるオープンソース、SNS(ソーシャルメディア)、地下のダーク(闇)ウェブのフォーラム(掲示板)などのさまざまな情報源を監視して、潜在的な脅威に関する情報を収集。普通なら収集できないようなインテリジェンスということになる。

脅威インテリジェンスでは不十分な時代に

ところが、こうした脅威インテリジェンスにも課題があった。例えば、脅威インテリジェンスでは、内部の脆弱性を無視して主に外部の脅威に焦点を当てている。さらにサイバー脅威が進化していく中、新たな脅威に対するタイムリーな情報を提供できない場合もあった。

ただ今日、サイバーの脅威はますます高度化および多様化している。脅威インテリジェンスが不可欠であることに変わりはないが、それだけでは不十分だと言わざるを得ない。組織は従来の脅威インテリジェンスへの依存を超えたセキュリティ管理への多面的なアプローチを採用することが必要になっている。

そこで鍵となるのが、「アタックサーフェス・マネジメント(攻撃対象領域管理)」と呼ばれる最近注目のサイバー対策だ。今、世界のサイバーセキュリティ企業や、セキュリティ意識の高い政府機関や民間企業の間では、このアタックサーフェス・マネジメントがかなりホットな話題のトピックになっている。この注目されているサイバー対策について、少し深掘りして見ていきたい。

プロフィール

クマル・リテシュ

Kumar Ritesh イギリスのMI6(秘密情報部)で、サイバーインテリジェンスと対テロ部門の責任者として、サイバー戦の最前線で勤務。IBM研究所やコンサル会社PwCを経て、世界最大の鉱業会社BHPのサイバーセキュリティ最高責任者(CISO)を歴任。現在は、シンガポールに拠点を置くサイバーセキュリティ会社CYFIRMA(サイファーマ)の創設者兼CEOで、日本(東京都千代田区)、APAC(アジア太平洋)、EMEA(欧州・中東・アフリカ)、アメリカでビジネスを展開している。公共部門と民間部門の両方で深いサイバーセキュリティの専門知識をもち、日本のサイバーセキュリティ環境の強化を目標のひとつに掲げている。
twitter.com/riteshcyber

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

10月の全国消費者物価、電気補助金などで2カ月連続

ワールド

サハリン2はエネルギー安保上重要、供給確保支障ない

ワールド

シンガポールGDP、第3四半期は前年比5.4%増に

ビジネス

伊藤忠、西松建設の筆頭株主に 株式買い増しで
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story