コラム

「孫子の兵法」に学ぶ、詐欺を見抜くための2つの方法 大切なのは「主導権」を握らせないこと

2022年11月24日(木)16時25分
詐欺

犯罪者は力ずくよりもだましを好む?(写真はイメージです) kuppa_rock-iStock

<詐欺が成功するのは「(犯罪者が)相手に時間的プレッシャーを与えているからだ」と犯罪学者の小宮信夫氏は述べる。だまされないためにどうすればいいのか? 答えは2500年前にすでに出ている>

オレオレ詐欺や還付金詐欺といった特殊詐欺の被害が深刻な状況にある。朝日新聞によると、大阪府内で確認された特殊詐欺の被害件数が過去最悪のペースで推移している。一日に5件以上の被害が判明しているという。北海道でも特殊詐欺の被害件数は過去最悪のペースだと北海道新聞が報じている。

警察庁の統計を見ると、昨年の特殊詐欺の被害総額は全国で282億円だ。毎日、約7700万円がだまされて取られたことになる。なぜこうも詐欺被害が多いのか。

犯罪者は、だましが大好きである。なぜなら、だましを用いた方が、力ずくでやるよりリスクが低いからだ。子供を狙った誘拐事件も、8割がだまされて連れ去られたケースだ。

金銭目当ての犯罪も、強盗よりも、詐欺の方が安全な犯行手段だ。強盗の場合、失敗すれば即逮捕される。しかし、詐欺なら、失敗しても(だませなくても)逮捕されない。だまされる人が現れるまで、犯行を継続できるのだ。

一般の人がだまされるケースの典型が、消費者詐欺である。内閣府の『国民生活白書』によると、消費者被害に遭った割合は、交通事故や身体犯罪の被害に遭った割合よりも高いという。その中でも大きな社会的関心を集めているのが、前出の特殊詐欺だ。

そもそも、こうした詐欺が成功するのは、相手(被害者)に時間的プレッシャー(切迫感)を与えているからだ。アメリカ航空宇宙局(NASA)のジュディス・オラサヌ主任研究員とアリゾナ大学のテリー・コナリー教授も、時間的プレッシャー(ストレス)がかかると、疲労感や不注意が生まれ、短絡的思考に陥ってしまうと説いている。その結果、他の選択肢が見落とされてしまうのだ。こうして、まんまと敵の術中にはまるのが、詐欺のお決まりのパターンである。

「孫子の兵法」がヒントに

ではどうすれば、だまされずに済むのか。その答えは、今から2500年前にすでに出ている。舞台は古代中国。そこは群雄割拠の乱世だった。周の勢力が衰え、覇権を争う国々による戦争が絶えなかった。この戦乱の時代にあって、台頭したのが姑蘇(こそ、現在の蘇州市)を都とする呉である。

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呉王・闔閭が築いた蘇州城(周囲20キロの城壁)の城門 筆者撮影

新興国の呉の王となった闔閭(こうりょ)は、側近の伍子胥(ごししょ)の強い推挙もあって、斉の出身であるにもかかわらず、孫武(そんぶ)を将軍に登用した。その後、呉は大いに躍進し、超大国の楚の都を陥落させるまでに至る。その最大の功労者と言われる孫武こそ、世界最古にして最高の兵法書の執筆者として、後に孫子と尊称されることになるその人である。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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