コラム

【英国から見る東京五輪】タイムズ紙は開会式を「優雅、質素、精密」と表現

2021年07月26日(月)17時48分

日本の知、アート、テクノロジーの凄みがにじみ出たように筆者は思った。

在英日本人としては、ジョン・レノンとオノ・ヨーコの「イマジン」が世界中のアーチストらによって歌われたこと、英ロックバンド、クイーンの「手を取り合って」もフィーチャーされたことがうれしかった。後者の曲は日本語の歌詞と英語の歌詞が混じっている。

圧巻は、テニスの大坂なおみ選手による、聖火台への点灯だった。

周知のように、大坂選手は日本人と母とハイチ出身の米国人の父を持つ。幼少の時に米国に移住。

大坂選手は、全仏オープン開幕直前の5月末、「心の健康が無視されている」として期間中の記者会見を拒否し、1回戦勝利の後、棄権した。今月の英ウィンブルドン選手権は、欠場。そんな同選手が東京でこのような形で姿を見せてくれたことは、テニスファンならずとも、多くの日本人にとって格別うれしいことだったのではないか。

今後、コロナ感染の拡大次第では五輪が最後まで続けられるのかどうかは分からない。

筆者は延期か早期時点での中止を支持してきたが、開会となった以上、選手の皆さんには全力を尽くしていただきたいと思っている。

■東京2020開会式の花火とドローンショー


森前会長とけじめ

しかし、感染状況以外で気になっていることがある。

それは、女性蔑視発言で辞任した、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森元会長の処遇である。 

国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長の歓迎会が18日、東京の迎賓館で行われたが、出席者の中に森前会長がいた。

皆さんは、おかしいと思わないだろうか。

女性蔑視発言の責任を取って、森氏は辞任した。現在の東京IOCは森氏との間に線を引いたはずである。

なぜ彼が呼ばれ、そして森氏はこれを受けいれたのか。

森氏がバッハ会長の歓迎式に出席するということは、現在のIOCが森氏の女性蔑視発言を問題視していないことを示すのではないか。問題視したからこそ、森氏は辞任したのではなかったのか。

19日、加藤官房長官は、森氏が「元総理の立場で参加をされたと聞いている」と述べているが、直近では東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長であり、問題発言がきっかけとなって辞任した事実は変わらない。

東京五輪は、開催までに様々なスキャンダルがあった。一連のスキャンダルは最後の最後まで五輪開催の可能性を揺るがせた。直近では過去にはいじめの加害をメディアに伝えた人物、ユダヤ人虐殺をネタとしてコントに入れた人物などが表舞台を去った。

過去の歴史を学びながら未来に向けて進んでいく若い世代のためにも、元に戻ってはいけない。けじめをつけたはずの人物を再度受け入れてしまえば、いつまでも過去から逃れられなくなってしまう。新たな一歩を日々踏み出していこう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story