コラム

【英国から見る東京五輪】タイムズ紙は開会式を「優雅、質素、精密」と表現

2021年07月26日(月)17時48分

北京五輪でもロンドン五輪でも、それぞれ素晴らしい開会式が行われ、「一体、東京五輪はこれ以上何ができるのか」と思ったものだ。

北京五輪の開会式とは(ウィキペディア)

しかし、今になって思うと、北京五輪の開会式は「大きさ・豪華さで勝負」という印象を残した。

ロンドン五輪の開会式は、英国が誇る産業革命の歴史や所得の大小にかかわらず医療サービスが無料で受けられる「国民医療サービス(NHS)」などをモチーフとして選んだ。

ロンドン五輪の開会式とは(ウィキペディア)

北京五輪が国力の大きさを世界に見せつけた開会式だったとすれば、ロンドン五輪はいかに自分たちが世界に先駆けてトレンドを作ってきたかを誇示する開会式だった。

後者では、まさにロイドパリー氏が言うところの「生意気な人物が見せる利口さ」が表に出ていた、ともいえる。

例えば、筆者が思い当たるのは「世界に先駆けて産業革命を実施」、「世界に誇る国民医療サービス」、「ワールドワイドウェブを考案したティム・バーナーズ=リー氏の登場」、「世界的に著名なジェームズ・ボンド映画のもじり」など、「私たちって、すごいでしょう、賢いでしょう!」という要素が並び、確かに「すごいね!賢いね!」なのだけれども、自己満足的だったようにも思うのである。

「東京は北京やロンドン五輪の開会式をどうしのぐのだろう」、と筆者は思ったものだ。

しかしながら、実は「しのぐかどうか」という物差しで見るべきではなかった。

考えてみれば、23日の五輪開会式は「どうだ、東京は(あるいは日本は)こんなにすごいんだぞ」という、いわば「勝ち誇った雰囲気」を見せる機会であるべきではなかった。新型コロナの感染が影を落としており、多くの人が延期あるいは中止を求めていた。日本にいる皆さんがよくご存じのように、当初の予算を大きく超過の上に、スキャンダル続きでもあった。

開会式の番組が始まってすぐに気づいたのは、静けさ(無観客であったせいもあるだろう)、真剣さ(パンデミックが広がる中、真剣にならざるを得ない)であった。浮かれている場合ではない、というメッセージだった。

新型コロナで亡くなった方を追悼するためのダンサーによるパフォーマンスや、コロナの犠牲者及び1972年のミュンヘン大会でイスラエルのメンバーが殺害されたテロ事件で命を落とした人への黙とうはまさにこうした真剣さを表すシーンだった。

光る知力、アート

開会式が進む中で、青い衣装を身に着けたパフォーマーが50の競技のピクトグラムをパントマイムで紹介し、発光ドローンを使って東京大会のシンボルマークが夜空に浮かび上がった。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:変わる消費、百貨店が適応模索 インバウン

ビジネス

世界株式指標、来年半ばまでに約5%上昇へ=シティグ

ビジネス

良品計画、25年8月期の営業益予想を700億円へ上

ビジネス

再送-SBI新生銀行、東京証券取引所への再上場を申
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story