コラム

慰安婦問題に迫る映画『主戦場』 英エセックス大学の上映会でデザキ監督が語ったことは

2019年11月22日(金)18時00分

この点で、この映画は今年同じく話題となった映画「新聞記者」(東京新聞の望月衣塑子記者が書いた本を基にしたが、実際にはフィクション。新聞記者と内部通報者が政府の悪事を暴こうとする)とは、別の着地点を選択したように筆者は思った。

筆者は「新聞記者」を高く評価しているものの、最後に内部通報者が心変わりをしたのか、あるいは実名を出して暴露することを決心したのかをあえて描いていない点を残念に思った。いずれかを選択することによる、制作側の覚悟を見たかった。

翻って、『主戦場』は慰安婦たちの方に最後は軸足を置いた。「中立」ではない。その評価は観客に委ねられた。

欧州にいる方は、スケジュールを確認して、上映イベントに足を運んでみてはどうだろうか。観客が映画監督に直接問いかけをすることができる機会はあまりないだろうから。

Kobayashi191122_4.jpg

欧州の上映会スケジュール(英語版『主戦場』のウェブサイトから)


監督との一問一答から

上映後の監督との一問一答の一部を伝えたい。

──しんゆり映画祭での上映中止の決定とその後について

「上映中止の決定は、脅しの懸念があるという理由でした。『懸念』です」

「幸運なことに、映画監督の是枝裕和氏がこれは検閲であると発言してくれまして、大きなニュースになりました」

「最終的に上映可能となりました」

「日本ではこのような形で表現の自由が制限されることがトレンドになりつつあります」

「今、ケント・ギルバートを含む5人に提訴されています。結論が出るまで、1年、あるいは10年ぐらいかかるかもしれません」

──その訴訟についての映画が次の作品になるのでしょうか?

「いいえ、そういうことはありません(笑)」

「予告編が混乱させるものだったようで、左派系の人はこんな映画は見ないと言い、右派系はまさに私たちの主張を出すものだと言って歓迎したのですが(会場、笑)」

「アメリカではこういう訴訟は、スラップ訴訟(注:提訴することによって被告を恫喝することを目的とした訴訟)と言われています。これは、基本的には表現の自由を抑制するものです」

「刑事責任を問う訴訟もあって、少々心配していますが」

「私の学位を取り消すべきだという主張をしている人もいます」

──元慰安婦が涙を流す映像が最後の方に出てきます。なぜもっとこうした映像を使わなかったのですか。

「同様の質問をした人は、たくさんいました」

「あの映像は最近見つかったものですが、あのような種類の映像を頻繁には使いたくなかったのです。その理由は、慰安婦の映像はこれまで、政治的な文脈の中で使われてきましたし......」

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日本の働き掛け奏功せず、米が相互関税24% 安倍元

ワールド

ロシアが企業ビル爆撃、4人死亡 ゼレンスキー氏出身

ビジネス

米関税24%の衝撃、日本株一時1600円超安 市場

ワールド

米連邦地裁、収賄疑惑のNY市長の起訴棄却 政権の「
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story