コラム

次期英首相最有力、ボリス・ジョンソンは国をぶっ壊しかねない問題児

2019年06月19日(水)20時30分

嫌う人も多い

しかし、ジョンソンを嫌う人も多い。

特定の宗教や人種に対する差別的暴言を述べたことがあり、「口が軽い」のが欠点だ。

近年の例だけを挙げても、国民投票のキャンペーン時にはオバマ米大統領(当時)には「ケニア人の血が入っている」から「大英帝国を毛嫌いしている」と大衆紙サンのコラムに書いた。また、イスラム教徒の女性が目以外の全身を覆うニカブを着用する姿を「まるで郵便ポストのようだ」と評したこともある。

トルコのエルドアン大統領を侮辱する発言をしたコメディアンを擁護したり、現在イランにスパイとして拘束されている英国女性について不適切な発言をしたりなど、問題発言が少なくない。

今回の党首選でのジョンソン支持に最も貢献したのは、ジョンソンの問題発言・暴言がこれまでに発覚していないこと。キャンペーンチームの戦略は「極力本人を表に出さないこと」だった。出れば問題が起きるからだ。ほかの候補者がテレビに頻繁に出演するのとは対照的に、ジョンソンは新聞媒体のインタビューに集中。放送媒体では失言が出ても、止めることができないが、新聞であればコントロールできる。党首選のテレビ討論の第1回目は欠席し、第2回目にのみ参加した。

政治的には、ロンドンの市長としてLGBT支援などリベラルな面を見せたかと思うと、ブレグジットを提唱し、「英国を国民の手に取り戻そう」と呼びかける内向きの面も見せる。離脱運動を率いる際には、「残留派を主導するのか、それとも離脱派か」を散々迷った末に、離脱派を選択したのはライバルと目するキャメロンが残留派だったためと言われ、一体何を本当には信条とするのか、本音部分が見極めにくい政治家だ。

フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、サイモン・クッパーが言うように、「オックスフォード大学の出身者が、自分の野心を満足させるために首相を目指している」(4月、ロンドンのイベントで)ように見えてしまう。

ジョンソンは今のところ、EUと約束した離脱予定日(10月31日)には「必ず離脱する」と宣言している。下院で3回も否決された離脱協定案の代案をEUと交渉する、とも。EU側は「離脱協定案の再交渉はしない」と再三、繰り返しているのだが。

筆者自身は、交渉決裂で、何の協定もないままの離脱という可能性が増していると思う。

周囲を実務的で有能なチームで固めれば、ジョンソン首相の下でもイギリスは何とか回っていくかもしれない。それでも、「自分の野心を満たしたいだけで首相になった」という疑念は消えないのではないか。

(在英ジャーナリスト、小林恭子)

magSR190625issue-cover200.jpg
※6月25日号(6月18日発売)は「弾圧中国の限界」特集。ウイグルから香港、そして台湾へ――。強権政治を拡大し続ける共産党の落とし穴とは何か。香港デモと中国の限界に迫る。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

9月改定景気動向指数、一致指数は前月比+1.3ポイ

ビジネス

村田製が新中計、27年度売上収益2兆円 AI拡大で

ビジネス

印財閥アダニ、米起訴受け銀行や当局が投融資調査 資

ビジネス

伊銀行2位ウニクレディト、3位BPMに買収提案 約
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story