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パリ五輪のこの開会式を、なぜ東京は実現できなかったのか?
闘病中のセリーヌ・ディオンが歌った「愛の讃歌」
競技会場を分散配置させることは近年の五輪運営における定石だが、開会式の舞台が分散配置されたのは初めてだ。警備上の難点を乗り越え、五輪開会式という世界で最も注目を集めるイベントで開催都市パリの魅力をふんだんに伝えたのだ。都市プロモーションのケースとしては成功事例ということになるだろう。
次に、演出の革新性も際立っていた。「オペラ座の怪人」の映像から始まったかと思うと、レディー・ガガの「羽飾りのトリック」熱唱が響き渡り、ムーラン・ルージュの現役踊り子がフレンチカンカンを踊る。フランス革命期の「レ・ミゼラブル」の映像が流れ、シテ島のコンシェルジュリ(旧監獄)の窓からマリー・アントワネットが自らの首を抱えて登場したかと思うと、メタルバンド「ゴジラ」が革命歌を奏でる。
愛についての本を読んでいた3人組が図書館を飛び出しアパートで愛を交わすかと思わせておいて、ゴールドの衣装に身を包んだアヤ・ナカムラがアフロポップ曲「ジャジャ」を歌い、ルーブルから盗み出だされた「モナリザ」が川に浮かぶ一方で、シモーヌ・ヴェイユらこれまでに活躍してきた女性の銅像がそそり立つ。
こうした構成はカオス的であり、ちょっと油断すると野放図な馬鹿騒ぎ、トリコロールな「セーヌの乱痴気」で終わりかねない。しかし、今回の開会式で芸術監督を務めたトマ・ジョリー(42)は、ほとばしるような「多様性」の表現を「愛」という概念で包摂して祝祭的空間にまとめ上げることにある程度、成功したように思える。
いわばダイバーシティの爆発的な称揚がなされた訳であるが、同時に、フランス共和国の理念である自由(リベルテ)・平等(エガリテ)・博愛(フラテルニテ)の「物語」が丹念に描かれていたことが殊の外効果的で、全体としての統一感が損なわれない程度の仕上がりを見せていたと言えるのではないか。
レディー・ガガやセリーヌ・ディオンといったフランスと直接的な関係があるとは言えないグローバルなスーパースターを起用する一方で、ギリシア神話のディオニュソス神に扮したフィリップ・カトリーヌ(フランスの著名歌手)を登場させるなど、攻めと守りのバランスも上手に保たれていた。
そして何よりもラストが素晴らしかった。スティッフパーソン症候群と闘うセリーヌ・ディオンが、エッフェル塔でエディット・ピアフの「愛の賛歌」を歌いあげる構成は、演出としては最高に近いものだったと言うべきだろう。
ここで、どうしても想起せざるを得ないのが2021年の東京五輪の開会式だ。
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