コラム

菅政権「9月5日のパラ閉会後解散」という見立ての説得力

2021年05月04日(火)20時39分

「9月5日のパラリンピック閉会後に解散」という見立て

ここで、政治日程を確認すると、

6月16日 通常国会会期末
6月25日 東京都議選告示
7月4日 東京都議選投開票
7月23日 東京五輪開会(〜8月8日)
8月8日 横浜市長選挙告示
8月22日 横浜市長選挙投開票
8月24日 パラリンピック開会(〜9月5日)
9月1日 デジタル庁発足
9月30日 自民党総裁任期満了
10月21日 衆議院議員任期満了

というのが今後の主要なスケジュールとなる。これまでに総裁選前の解散総選挙のタイミングとしては、「会期末」、「都議選同日」、「パラ閉幕後」などの可能性が指摘されてきた。そうした解散総選挙の前に、まずは内閣改造を行うとした場合に注目されるのは、8月22日の横浜市長選挙だ。

菅首相のお膝元である横浜市の現職市長は林文子氏。BMW東京社長、ダイエー会長兼CEO、日産執行役員などを歴任した後の2009年、当時の民主党推薦で初当選した。同時期に名古屋市長に当選した河村たかし元衆議院議員と並んで、その後12年間一貫して市長の座を維持している。

4月25日に行われた名古屋市長選挙で4期目(一度リコール問題で辞任し再選されているので、当選回数としては5選目)となる再選を果たした河村市長に続き、林市長も4期目に意欲があるとも報じられている。だが、市政長期化とIR誘致などを巡る対応に批判も集まっており、野党共闘で有力な新人対立候補が登場すれば、負ける可能性がある。そこで自民党内では、菅首相に近い三原じゅん子参議院議員(神奈川県選出)を推す声が挙がっている。

しかし三原氏は現職の厚労副大臣。コロナ禍にあって職責を放り出したという批判は避けたいことから、「不妊治療への保険適用」政策にめどをつけた上で、内閣改造または解散総選挙(直後の組閣)のタイミングで厚労副大臣を「自然と」退任し、市長選出馬を表明するという可能性が指摘されてきた(内閣改造は副大臣、政務官も交代するのが通例)。

その場合は自ずと、横浜市長選挙告示日である8月8日の前という話になろうが、8月8日は東京五輪の閉幕日。内閣改造も解散も、普通に考えたらありえない。7月23日の五輪開会前に遡るとなると、結局は7月4日投開票の都議選と時間的に近接することになる。しかし、都議選との同日選に反対する公明党の声は強く、菅首相と蜜月関係を保っていた創価学会の佐藤浩副会長も既に退任したと報じられている。公明党・創価学会との調整は容易でないだろう。

もちろん横浜市長選挙だけが内閣改造・解散総選挙を左右する訳ではないが、お膝元の市長選挙は菅首相にとって考慮事項の1つに違いない。時間的に余裕がないことを重視すれば、内閣改造なしにそのまま解散総選挙を決断するか、あるいは会期末後に時間を置かずに内閣改造をして、総選挙向けの布陣を整えた後、例えば9月5日のパラ閉会後に臨時国会を招集して解散総選挙を断行する――といった日程感が、総裁選前の「早期解散」があるとした場合の1つの見立てになろう。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story